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第9話

 翌朝、ジェスはまたレクター病院へ足を運んでいた。地下が怪しいということだったので、ジェスはゆっくりと1階部分を歩いてみた。階段、もしくは床が可動式になっている箇所などは勿論、怪しい場所も一見は怪しくはなさそうな場所も見て回れるところは丁寧に見て回った。 「半分くらいは見ることはできたけど……」  昼時になり、またジェスは昨日、昼食をとった中庭にいた。何だか、病院に対して疑心暗鬼になってしまい、ジェスは朝食にとホテルに出入りしているパン屋から買ったパンを残して、昼食でも食べていた。 「病室や処置室なんかには1人では入れないな。せめて、白衣でもあれば、もう少し掘り下げて調べられるんだけど」  と、ジェスは呟く。  最悪、変装さえできれば、IDは少しの間だけ誰かに内緒で借りれば良い。  そんなことを考えていると、昨日と同じようにファルが立っていた。 「そう来ると思って、用意しておいた。まぁ、IDは仮のものだから、3日くらいしか使えないだろうけど」 「……」  ファルによって差し出される白衣とIDに、ジェスは顔を顰めると、腰をかけていたベンチから立ち上がる。 「まだ怪しんでる? まぁ、そうだね。俺なら怪しむかも知れないけど、もう手は尽くされているし、罠でも乗っかかるかな?」  ファルの『手が尽くされている』というのはジェスにとって図星だった。  確かに、いつもは穏やかな町の記事を書くジェスだが、情報を得る為にゴミ箱を漁ったり、獰猛な野犬を追うため、1日中、身動きしないで張り込んだりしたこともあった。  多少、危険でも必要とあらば、罠に乗るというのもアリなのかも知れない。 「あんたのことはまだ信用した訳じゃないが」  ジェスはファルから白衣を受け取ると、ファルはにっこりと笑う。 「ハハハ、でも、俺はお兄さんを応援してる」  人類のために、と大袈裟に言って、去っていくファルを凝視すると、ジェスは白衣に着替えた。

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