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第4話
朝日が顔に当たって目が覚めた。
起きた凍夜は困惑した。
着ていたはずのスーツは脱がされ、下着一枚しか身に付けていない状態で寝ていた。
しかも隣には上半身裸の藤堂が寝ている。
もしかしなくても一線を越えてしまったのだろうかと思ったが、体のどこも痛くはない。
困惑していると、藤堂が起きた。
「おはようございます、先輩」
「こ、お」
『この状況を教えろ』と言いたいのに、現状にあまりに動揺しすぎて、言葉を発する機能を失っていた。
それでも半年ずっと一緒に仕事をしてきた藤堂は凍夜が何を言いたいのか把握していた。
「何で裸なのか、というのは先輩が『暑い!脱ぐ!』と言って自らTシャツを脱いだからです。スーツを脱がせたのは俺です。皺になるといけないと思ったので」
藤堂が指さす方を見ると、藤堂の言う通りハンガーに掛けられたスーツがある。
そのついでに床に視線を移すと、自分の手の届く範囲に服が落ちている。
藤堂の言うことは間違っていなさそうだった。
「お手数をおかけしてすみません」
「熱はどうですか?ガタガタ震えていて、温めようと手を尽くしたんですけど、どれも効果がなくて、最終的に俺の体温で温めたんですけど」
「ちょっと怠いけど、昨日ほどじゃない」
「それなら寝ててください。朝飯作ってきますから」
そう言って藤堂は寝室から出て行った。
一人になった凍夜は先程の藤堂の言葉に違和感を覚えた。
『俺の体温で温めておいた』ということは、ずっと藤堂に抱きしめられていたということ。
くんくんと自分の匂いを嗅ぐと、仄かに藤堂のつけている香水の匂いがした。
それだけで凍夜の下半身に血液が集中し、熱くなるのを感じた。
「先輩、朝飯出来たんで、着替えてきてください」
キッチンから藤堂の声と共にいい匂いがする。
部屋のドアを挟んですぐ近くに藤堂がいるから抜くわけにはいかない。
落ち着くために少し時間をかけて着替え、キッチンで待つ藤堂の元へ向かった。
「うまい…」
「お口に合ったようで何よりです」
藤堂の作った朝食はただのお粥。
何の変哲もないただの白粥。
それなのに、まるで料亭の味がするから不思議だった。
「隠し味でも入れてるのか?」
「特別何もしてません。ただ普通に作っただけです」
「それなのに、こんなにうまいなんて、お前料理人とか天職なんじゃないか」
「料理は趣味程度で十分です。食べてもらいたい人はただ一人だけなので」
藤堂がいきなり意味深な言葉を吐いた。
凍夜は突然のカミングアウトに動揺を隠せなかった。
「す、好きな奴でもできたのか?」
「えぇ。その人のためになら、何でもしてあげたいと思えます」
「相当好きなんだな。気持ちは伝えたのか?」
「まだです」
「そうか…」
重い空気が二人を支配する。
ただカチャカチャと食器とカトラリーが当たる音だけが虚しく部屋に響いた。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
「片付けは俺がやるから」
「先輩は病み上がりなんですから、薬飲んで部屋に戻って寝てください」
「薬?」
「24時間営業の薬局で買ってきたんです。他にもいろいろ買ってきました」
藤堂が指差した部屋の隅に大量に中身が入っているであろうビニール袋が置かれていた。
中をのぞくと、風邪薬の他に、スポーツドリンク、ゼリー、栄養ドリンクが入っていた。
「わざわざ買ってきてくれたのか?」
「冷蔵庫の中、何も入ってなかったので」
「…すみません」
もともと自炊をしない凍夜の冷蔵庫の中身はビールと水だけは常備されており、食事は毎日外食だった。
おかげで、体調を崩したりすると『食べる物がない→薬を服用できない→完治までに時間がかかる』という負のループに陥るのが常だった。
それが今回は藤堂がいてくれたおかげであっという間に完治しそうで、凍夜は藤堂に感謝した。
「本当に今回は助かった、ありがとう」
「とんでもないです。困った時はお互い様ですから」
「何か礼をさせてくれないか?」
「気にしないでください」
「そういうわけにはいかない。俺の気が済まないんだ」
「…じゃぁ、先輩の風邪が完治したら、一つお願いしてもいいですか?」
「今じゃ無理なことか?」
「今は無理です」
「じゃぁ、来週末ならどうだ?その頃には完治してるはずだし」
「分かりました。来週の金曜の夜、空けておいてもらっていいですか?」
「来週の金曜だな。分かった」
「それじゃ、今日は帰りますね。お大事になさってください」
「ありがとう」
手早く荷物を纏めると、藤堂はどこか嬉しそうに、凍夜の家から帰っていった。
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