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眠目線 2
二人で出かけたあの日から、都筑が俺の事を『茨城』と呼ぶようになった。
他人行儀な『キミ』とかフルネームの『茨城眠』ではなく『茨城』。
それもどうやら俺だけ、そーゆー呼び方らしい…。
「…って、だからなんだ!名前の呼び方が他と違うからってこんなに気にするのはどうなんだ?俺!」
「わ、びっくりした。…急にどうしたんです?茨城主任」
「あ、わりぃ。ちょっと考え事してて」
「もう。あと少しですから、じっとしてて下さいね」
「…はい」
そうだった。俺は今、コイツに髪を結び直してもらっていたんだった。
今年、鑑識課に配属された新人で何かと世話焼きタイプのコイツは、俺が仮眠室から戻ってくる度に三つ編みを編み直してくれる。
『え?何で主任の髪の三つ編みを直したいのかですか?だって主任ってば『寝起きです』ってまま仮眠室から戻って来るんですもん。乱れ髪の主任はそれはもう色っぽくて素敵なんですが、うち(鑑識課)以外の人に見せるのはイヤですから。それに主任の淡いピンク色の美しい髪に触れられるチャンスですし♡ふふ。オレっば役得♪』
……と、いつだったか捲し立てられ、それから有無を言わせずやられるようになった。
「…まあ、楽だし気持ちいいからいっか」
「何か言いました?…はい、出来上がりましたよ♪今日も綺麗な三つ編みです♪」
「おお、サンキュー。さて。残りの仕事もチャッチャとやっつけますか」
「はいっ♪」
と、俺達が気分も新たに仕事に取りかかろうとした所で背後から声をかけられた。
「…茨城。ちょっといい?」
『茨城』そう呼ばれドキリとしてしまうのは都筑が相手の時だけだ。
(いーかげん慣れろよ、俺!)
「…ああ、なんだ?都筑。なんかあったか?」
と、ドキドキしている事がバレないよう明るく言い振り返ったのだが、…都筑?なんかちょっと不機嫌か?
「茨城主任に用があるから、望月信夫は自分の仕事に戻ってて」
「…はい。分かりました。」
と、都筑に言われコイツもナゼかちょっとムッとした感じで自分の席へと戻って行った。
「…どうしたんだ?アイツ。…それに都筑も?」
「どうもしてない。向こうの部屋で話すよ」
「あ、ああ」
都筑が隣りの部屋へとスタスタ行ってしまうので、俺も後を追いかけて中へと入った。
「アイツ『信夫』って名前だったのか~。都筑はあんな新人の名前も覚えてるんだな」
部屋の扉を閉め俺が感心して言うと
「鑑識課の全員の名前くらい覚えてる。…そんな事より」
相変わらず不機嫌そうな都筑が俺に詰め寄ってきた。
「…な、なんだよ」
「随分、望月信夫と仲がいいんだね?髪なんて触らせて気持ち良さそうにして?」
俺の方が少し背が高いから都筑は下から睨みあげるようにするのだが…
(…綺麗な顔のヤツが睨みを利かせると迫力あるよな)
と、いけねぇ。余計な事を考えてる場合じゃなかった。でも都筑がナゼ怒っているのかが分からない。
「…うちの新人くんだからな、仲良くはするさ。髪はアイツがやりたいって言うし、髪触られるのは嫌いじゃないし…」
「…へえ、じゃボクが触ってもいいよね」
そう言うと都筑は結び目のゴムを引き抜く。
はらりとほどける三つ編み。
都筑の手が俺の首筋近くの髪に触れ、そのまま毛先までするりと髪をすく。
その瞬間、俺の身体に痺れるような快感が走る。
「…っ」
(…なんだ、いまの?)
ビクリと身体を強張らせた俺に都筑の手が止まる。
「…ふうん。ボクが触ると気持ちいい…いや、それ以上みたいだね」
都筑はもう一度同じように髪をすき、毛先が手のひらから離れる瞬間、きゅっと握りしめた。
「…ぅ、…あぁ」
またしても快感が走り思わず声が出てしまった俺は恥ずかしさに頬が熱を持つのを感じた。
そんな俺に気をよくしたのか、意地の悪い笑みを浮かべる都筑。
「…いい反応。でも今はこれ以上はしないよ。仕事中だからね。」
そう言って俺から離れる都筑。
熱を持ち始めていた俺の身体は離れてしまった都筑の体温にもの寂しさを感じてしまった。
そんな自分の身体と感情に戸惑う俺に、都筑は何もかも察しているように意地悪な笑みのまま言う。
「今夜、キミが続きをシたいのなら、シてあげてもいいよ」
「…なっ」
俺があまりの事に絶句していると、その間に都筑は扉の方へと向かった。
ドアノブに手をかけた時、思い出したようにこちらを振り返る。
「…髪の毛は自分で結びなよね。…今後一切、ボク以外に触れさせないで」
ちょっと拗ねたようにそう言うと、都筑は部屋を出て行ってしまった。
後に残された俺は軽いパニックである。
「…いまのは、まさか、…ヤキモチか?…まさかな。…今夜、都筑と…続き…、ってダジャレ言ってる場合か!あ~もう、ワケわからん!」
ガシガシと頭をかく俺。
ほどかれた三つ編みを結び直そうと髪に触れると先ほどの都筑が思い出され…
結局、三つ編みをし直し部屋を出るのに数十分かかったのだった…。
注意…ゲーム内のキャラに『望月信夫』はいません。私のオリジナルです。
モチヅキシノブ…→モブです。
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