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眠目線 3

「だーっ、全然、都筑に会えやしねぇ」 ここ数週間、ずっと事件続きで鑑識の仕事が全く途切れず、現場と鑑識課と仮眠室を行き来するだけの生活を送っていた。 その為、寮にすら殆んど帰れていない。 「…都筑は寮じゃねぇから、それはいいんだけどさ」 最後に会ったのはいつだっただろう。 仮眠室での事があった後、都筑に寮の部屋の前まで送ってもらった。 照れくさくてマトモに都筑の顔が見られなかった俺に、都筑は呆れつつも優しく唇を合わせ… 「…じゃあ、おやすみ」 とだけ言って帰って行った。 後日、式部副総監から聞いた都筑が好きだという金平糖を持って監査官室に行ったのだが、都筑は不在で会えなかった。 仕方ないので藤沢という理事官に預けて戻ってきたのだが…。 (あの理事官、都筑にちゃんと渡してくれたかな…) それすらも会えない今は知る事が出来なかった。 都筑が鑑識課に監査で来ていた時は、毎日顔を合わせていたのに。 それが無くなった今… (…俺達に接点、無くね?!) 昼休憩中、社員食堂で好物のマヨ丼を食べていた俺だったが、気付いた事実に愕然として箸が止まる。 「どうしたんですか?茨城さん」 同席していた姫夜と鏡谷が、俺の様子に気付き怪訝そうにこちらを見てくる。 「…いや、なんでも」 「…そうですか?何でもないというようには見えませんが」 「なになに?もしかして茨城さん、例の彼氏さんとケンカでもしちゃいました?」 「なっ」 「え? 彼氏…さん…?」 茶化すように聞いてくる鏡谷と思いがけない話に驚く姫夜。 「鏡谷、お前 何言ってっ。ア、アイツはそんなんじゃねぇし、ケンカしてる訳でもねぇっ」 俺が慌てふためくと「あ、そうなんですか」と素直に納得する風の鏡谷。 姫夜は訳が分からないながらも赤面してこちらを見ている。 「でも何かあったら言って下さいね。俺達、話くらい聞きますよ」 「お、おう。そん時は頼むわ。……と、そうだ。俺の知り合いの話なんだが、いいか?」 「え?…知り合い。…あ~、全然いいですよ♪ね、怜♪」 「え?ああ。俺達で良ければだが…」 どこまで気付いているのか…。快く笑顔で応じてくれる鏡谷と、戸惑いながらも真摯に話を聞こうとしてくれる姫夜。 (…いいヤツラだな) と、俺は気持ちが温かくなるのを感じながら『知り合い』の話をした。 「なんだ、もうそこまでシてるならどんどん会いに行けばいいのに。…その『知り合い』さん?」 「…いやでも、こっちが勝手に会いたいって思ってるだけでむこうがどう思ってるか分かんねえし……。って『知り合い』がなっ」 という、まどろっこしい会話を俺と鏡谷がしていると、黙って聞いていた姫夜が口を開いた。 「…その知り合いの方は、自分の気持ちを告げたのでしょうか?」 「…へ?…気持ち?」 「あ、そうだよ!そこ大事じゃん!怜、イイトコついてる♪茨城さん、告白はしたんですか?」 「………告白?………え?」 「もう!その人の事が『好き』だから会いたいんでしょう?」 「……え。……俺。…………そうか…アイツの事…」 「……? 知り合いの方の話ですよね?」 「えっ、…あ、そっ、そうっ『知り合い』の話だよなっ」 「ぷ…。茨城さん、その『知り合い』さんに、言ってあげて下さいよ。まずは自分の気持ちをちゃんと伝えてって」 楽しそうに笑いハッパをかけてくる鏡谷。 不思議そうにしながらも鏡谷に同調し頷く姫夜。 俺はそんな二人に後押しされ、今更ながらに気付いた自分の気持ちを都筑にきちんと伝えようと思ったのだった。 「……って、言ってもな。そもそも会う事が出来ねぇんだよ」 数日後の昼間。漸く仕事が片付き久々のオフ日を布団の中でゴロゴロしていた俺。 ダラダラと惰眠を貪りつつも、気付けば都筑の事ばかり考えてる。 「…でも、今度会ったらちゃんと言わなきゃな。…都筑が、好きだって…」 そんな時だった。部屋のドアを「コンコン」とノックする音が聞こえてきた。 (……誰だ?…悪いけど俺は出ないぜ。今日は休みを満喫するって決めてんだ) 俺は布団を頭から被って気配を消す事にした。 だが再び「コンコン」とドアをノックされる。 (…………俺は、いません) ………「コンコン」 (…………いませんよ) ………「コンコン」 (…………) ………「コンコン」 「だーっ、誰だよ。俺はいねぇって言ってんでしょうがっ」 ドアを開け放ちながら、しつこくノックしてくる相手に文句をぶつければ 「やっぱり、居留守だった」 と、ドアの前で尚もノックしようしていた相手に真顔でそう返された。 「……え、……都筑?」 ドアを開けたまま唖然とする俺の顔をマジマジと見つめる都筑。 「まさか寝起き?もう昼過ぎだけど」 「…そりゃ、今日はオフだしな。いつもならもっと寝てることだって…。いや、そんな事より、なんで都筑がここにいるんだ?」 「なんでって用があるからに決まってるでしょ。…はい、これ」 呆れ顔だった都筑の視線がフイッと俺から外され、少し乱暴な手つきで手提げ袋を手渡してくる。 「…え?」 俺は咄嗟に受け取ったものの、それが何なのか分からず困惑していると 「…じゃ、用はそれだけだから」 都筑は踵を返し、さっさとこの場を去ろうとした。 「いや、待て待て待てっ。用はこれだけって意味分かんねぇよ。これ、何?何なの? おにーさんにも分かるようにちゃんと説明して」 俺は慌てて手提げ袋を受け取った手とは逆の手で都筑の腕を掴む。 だが都筑は振り向きもしなければ、何も喋ろうとしない。 「……」 「…え?何?これ、なんかマズイもんなわけ?」 俺は焦って都筑と袋を見比べる。 「ふ…。そんなわけないでしょ」 思わず笑ってしまったらしい都筑が、俺の方へと振り返る。 その顔は怒っているようにも見えたが、僅かに頬が染まっているようにも見えた…。

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