確認がし終わり、 理人はどこか落ち着かない様子だった黒井にすべてを話すと黒井はほけっとした顔になった後、 机に顔からダイブをして、 ゴン、 と痛そうな音を出した。 「そう、 なんだ……そっか…………。 ……よかった……」 　何がよかったのか。 動かない黒井に理人は不安になってうろうろと手を動かす。 （その間も、理人の表情は一切動かない。） 　そろそろと上半身も動き出し、 小さめのひとりチュー〇ュート〇インが始まりだしたときに黒井は上体をあげた。 「なにやってんの？」 と少々冷たい目で見られ理人は内心 （解せぬ） と思いながらも動きを止めた。 「祥、 おでこ真っ赤になってる……」 「うん、 自分でもびっくりするぐらい、 すごい勢いでぶつけたからね。 痛いよ、 すごく」 　はぁ……。 と憂いを帯びたため息をつきながら黒井は自分の額を撫でる。 　痛そうだな、 と理人もそっと手を伸ばし、 指先で慰撫する。 体温の低い理人の指先は、 じんわりと赤みを帯びて熱をもつ額に気持ちよかったのだろう。 黒井からすり、 と額を指先にすりよせた。 「というか……そう、 そういうこともあるんだね。 よかったね、 筧」 　ふわっと柔らかな笑みを浮かべて黒井は理人にもう一度 「よかったね」 と言って、 額にあった理人の手をやわらかく握った。 「―― うん」 　よかった、 本当に。 　黒井にお礼を言って理人は、 昼休みが終わるからと自分の席に戻って行った。 　＊　＊　＊　＊ 　ほんの少し延びた委員会の仕事がようやく終わって自室に戻ってきた青梅は、 玄関にある靴がひとつ多いことに気づき首を傾げた。 　青梅の同室者は外部生で部屋に呼ぶような友人はいないと、 そう聞いている。 クラスでよく話す友人はいると言っていたが、 部屋に招いても夕飯の時間には食堂に行くため早々に退室すると言っていた。 　はて、 と思いながら廊下を進めば誰かがシャワーを浴びている音がする。 同室者が入っているのかと想いながらもリビングに入る。 と、 そこに同室者がいた。 「あ、 おかえり、 壱岐。 今ちょうどご飯できたところ」 「ただいま。 え、 筧。 今、 誰かシャワーに入ってるよね？　そんな音が聞こえたんだけど……」 「あー……、 うん。 ごめん。 自分の部屋に帰れって言ったんだけど……、 泊まりたいらしくって」 　相変わらず動く気配のない表情だが、 苦笑を浮かべているのであろう、 というころはわかる。 　青梅はまさか、 と口を開いたタイミングで、 リビングの扉が開いた。 「りい、 ご飯ってできたの？　……あれ、 青梅だ。 なんでいるの」 「 “なんでいるの” 、 は俺の科白だ。 ここは俺の部屋。 真人こそ、 なんでここにいんの」 　まさか、 よもや。 嫌な考えばかりが青梅の脳内をうめる。 　わっしゃわっしゃとタオルで頭を適当に拭った真人はタオルを首にかけて理人に近づく。 「まだ髪の毛濡れてるよ、 ちゃんと拭け」 と理人は抱き着こうとする真人に腕を掴んで頭へと持っていく。 「壱岐、 手ェ洗って、 食べよう。 オレ、 お腹すいた。 ……真人も一緒だけど……。 そういえば、 ふたりは知り合いなのか？」 「中学のときの同室者。 りい、 頭拭いてよ」 「自分で拭きなさい」 　目の前で繰り広げられるやり取りに、 青梅は顔色をなくし、 おそるおそる理人を見やる。 「なあ……筧。 その、 身体とかは大丈夫なのか……？　主にこ――」 　し、 と続けようとしたところで真人に臀部を蹴られる。 真人より青梅の方が身長は高いが腰の位置がほぼ変わらないので、 悠々と届く。 　手加減など一切されていない打撃。 「っでぇぇぇぇっ」 「理人に変なこと訊いてんじゃねえよ。 つうか邪推すんな。 オレと理人はそんなんじゃねえから」 「身体……？　そんなん……？　え、 なに、 何の話？」 「理人はわからなくていいよ。 理人はそのままでいて」 　崩れ落ちた青梅を心配しつつも、 会話の内容がまったくわからない理人はうずくまる青梅とそばで仁王立ちをする真人を交互に見る。 　真人に 「とりあえず、 青梅は放ってご飯食べよう、 理人」 と背中を押されて、 理人は自分の席に着いた。 真人も理人の隣に座り、 合掌して食べ始めた。 「壱岐……大丈夫……？　ご飯冷めるし……えっと、 食べよう……？」　 　身体を傾けて、 食卓から青梅を覗き込む。 青梅は痛みのなくなってきた尻をさすりながらゆっくりと立ち上がり、 ひとり呑気に理人がこさえた夕餉をもくもくと食べている真人を睨みつける。 「理人がせっかく作ったご飯、 冷ますとかありえねえから、 とっとと食え」 「俺、 真人がこんなに喋ってるの初めて見たわー……」 　ぼそっと呟き、青梅は理人の向かいに座った。 「いただきます」 　青梅も合掌をし、食べ始めた。