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第4話
「ああ、 ほら、 やっぱりサイズ合わないよ……。 壱岐のは大きすぎるしな」
朝、 理人は困ったように自分のカッターシャツを真人の身体に合わせていた。
理人と真人は身長差は2センチとそうないが、 体格は真人の方がよく、 肩幅や腕の長さがまったく違うため真人では理人の服を着ることがかなわない。
夕べ、 真人が泊まった際に寝間着として借りて着ていた服は理人のものだが、 理人は私服は大きめのものを好んで着ていたために真人も着ることができた。 だが制服はそうはいかない。
理人のカッターシャツを真人に背中に合わせてみても、 あからさまにサイズは違う。 かといって同室者の青梅は180を超える長身で、 青梅のでは大きすぎる。
「ごめんな、 真人。 オレが洗い忘れたばっかりに」
「ん、 いいよ。 青梅の借りるから……袖まくれば、 大丈夫だと思う。 今日は暑いし」
くるりと身体を反転させて、 真人は理人をきゅうっと抱きしめる。
「というわけで、 青梅、 お前のシャツ貸して」
「全力で洗って返せよ」
ネクタイを結びながら、 理人と真人のやりとりを苦々しい顔で見ていた青梅は部屋からカッターシャツを一枚もってきて真人の頭上にかぶせた。
「ああ、 真人が借りたシャツはオレがちゃんと洗うよ。 オレが洗い忘れたせいだし」
「急に用意もせずに泊まった真人が悪いと俺は思うけどね」
やけに刺々しい言い方だ。 理人は10センチ近く高い青梅の顔を見上げて首を傾げた。
自分を見上げてくる理人の視線に青梅は 「うぐぅ」 と呻き声を出してしゃがみこんだ。 一体どうしたというのか。 心配になり、 理人は一緒になってしゃがみこもうとしたが、 真人にとめられる。
「りい、 部屋異動したらどうかな……。 これ、 たぶんそのうちケダモノになるから」
「けだもの?」
「そういうことを言うんじゃねえよ! やりづらくなるだろうがっ」
「おいてめぇふさけんなよ」
オレの予想通りかよ。 と真人は青梅の背中を平手で叩いた。
ふたりの言っている意味がまったくわからない。 理人は置いてきぼりは寂しいなあ、 と甘えるように真人に背中に抱きつき、 それを見た青梅が頭を床に打ちつけた。
* * * *
「壱岐って不憫だね」
朝の出来事を黒井に話し終えた理人は、黒井の発言に首を傾げた。
「まあ、でも、わからないでもないけどねぇ、壱岐の気持ちは。昨日の昼までの僕と一緒」
ふわふわと笑いながら、売店で売っているロイヤルミルクティーを飲む黒井は、ペットボトルだとは思えぬほどに優雅だ。
今日は首を傾げてばかりだな、 と思いながら首を反対側に傾げる。
「筧は思ったより鈍いみたいだね。 いいよ、 そのままで。 ゆっくり、 ゆっくり……攻められればいい」
「え、 オレ攻められるの? 守りに入るべき?」
「受けるべきかな」
「え、 受けるの? オレ攻撃されるんだよな?」
「うーん……、 ちょっと違うかな?」
ふふふ、 と頑是ない子を見るような優しい目で、 黒井はゆったりと理人の髪を梳いた。
「言ったでしょう。 いいんだよ、 筧はそのままで」
ことり、 と傾けられた小さな頭。 動きに合わせてさらさらと流れる髪の毛は丁寧に手入れされているのだろう、 絹のように綺麗だ。 触ったら柔らかいのだろう、 理人は誘われるように黒井の髪の毛に触れた。
理人に撫でられたことに驚いたのか、 きょとりとした顔をしていた黒井は、 またふわっと笑った。
「ふふ、 有料だよ、 筧」
「……まじかよ」
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