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第6話

 ふわふわと柔らかい髪を撫でる手は男の割には節が目立たず、 指が細い。  撫でられている男の緩みに緩んだ、 ゆるゆるな表情を見ながら、青梅は苦々しい顔で珈琲を飲んでいる。 「壱岐、 もしかして珈琲苦かった? いつも通りいれたつもりだったんだけど」 「んにゃ……。 大丈夫、 苦くない。 ……そっちじゃないんだ、 うん……」  ことり、 と首を傾げた理人を真正面から直視した青梅は顔を覆い隠しうつむく。  あしをバタバタとしそうになるのを必死にこらえて指のすきまからのぞくと、 理人の膝に頭をのせてご満悦の真人が勝ち誇ったような顔をしていたのが見えて一瞬にして気分が変わる。  この男、 すごく殴りたい。 今すぐ、 殴ってやりたい。  手を顔からのかし、 青梅はカップに残っていた珈琲を一気に呷った。 「そういえば、 なに、 真人は今日も泊まるわけ? 二日連続かよ」 「今日はちゃんと自分の着替え持ってきたから無問題」 「そういう問題じゃあねぇな」  無表情ながらもドヤァと効果音がつきそうな雰囲気の真人に、 額に青筋が浮かびそうなほど腹が立つ青梅。 「つうか、 ベッド狭くねえの? シングルじゃないからまだ広いけどよ」 「ちょっと暑いけどくっついて寝てる。 りいのが小さいから抱き込めば何の問題もない」  持っていたカップをローテーブルに叩きつけそうになるのを必死にこらえる。 無表情だというのにドヤ顔をしているように見えるのが余計に腹立たしい。 「確かにオレの方が小さいけど、 そんなに変わんないじゃんか」 「身長差じゃなくて、 体格差だよ」  よっこらせ、 と大儀そうに、 しかし素早く腹筋で起き上った真人は理人の隣にぴったりとくっついて座りなおす。 「りいは華奢だな。 昔は変わらなかったのに」 「本当にな。 なんだってこんなに体格差が出たんだか」  はあ、 やだやだ。 あの頃の可愛い真人はどこに行ってしまったんだ。  真人の髪をぐっちゃぐっちゃと乱し、 理人は立ち上がるために肩に懐く真人の頭を手でのけた。 「じゃ、 オレはシャワーに入ってくるから」  壱岐と真人、 仲良くしててよ。  洗面所へと向かう背中を青梅と真人は見送る。 「――――……、 俺は今、 ものすごくお前を殴りたくて仕方がないわ」 「暴力反対だ、 青梅。 安心しろって。 俺とりいは恋人にはならないから。 つうか……それ以上、 だし」 「は!?」 「珈琲のおかわり注いできてやるよ」  言い捨てるようにして真人は青梅のカップを持ってキッチンへと小走りに向かう。 「おい、 真人っ! 今のはどういう意味だ!」  リビングから聞こえてくる大きな声に、真人は笑った。 (どういう意味も何も、 そのまんまの意味だ。 恋人にはならない。 もともと、 それ以上なんだから)  だが、 いろいろと面白い方向に誤解、 思い込んでいる青梅が楽しくて、 もう少しこの状態で青梅で遊ぼう。 幸いなことに、 理人と真人のことを、 理人も青梅には言っていないようだから。  もう少しだけでいい。 もう少し、 理人とふたりの時間を過ごせたならば、 青梅に譲ってやる。 「もう少しだけ、 りいは俺の」  珈琲を自分の分も注ぎ、真人は未だに叫ぶ青梅のもとへ戻った。    

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