3 / 62

【無垢な瞳が瞬く】

◆小説用お題ったー。様より ~お題【無垢な瞳が瞬く】~  学級日誌を書いている俺の前に、一人の男子生徒が座っている。  何度も『先に帰っていい』と言ったのに、俺を待つものだから……俺はもう、なにも言わない。  ソイツは学級日誌に視線を落としながら、妙に瞳を輝かせていた。 「【一目惚れ】とかけまして【瞬き】と解きます」  そこで言葉を区切るということは、俺に話題を振っているということなのだろう。ペンを走らせながら、俺は決まった相槌を打つ。 「その心は?」 「どちらも【気付いたらしていた】でしょう」  馬鹿なコイツにしては、なかなか巧い謎掛けだ。  ……だけど。 「ドヤ顔がムカつくから、二十点」  妙にキラキラした瞳で、ちょっと口角を上げながら俺を見る顔がムカつく。  だが、意地の悪い返答にも、コイツはキャッキャッと喜ぶ。 「ヤッタ! 前のテストより点数高い!」  ……ヤッパリ、コイツは馬鹿だ。  妙にはしゃいでいる馬鹿を放っておいて、学級日誌に向き直る。そんな俺に倣って、馬鹿も学級日誌を見つめている。  だが、ただ待つだけなのは暇らしい。 「なんかさ~……? 僕と委員長の関係も、瞬きみたいだよね~?」  取り留めの無い話題を振られ、俺はペンを一度だけ止めた。 「付き合ってはいるけど、一緒に居てもそこまでドキドキしないって言うか……慣れって言うか、意識しなくなったって言うか? 当たり前になっているって感じ?」  毎日一緒に登下校して、手を繋ぎ、時々抱き締め合う。俺たちは実に、健全な交際をしているだろう。  頭がお花畑なコイツは、それ以上のことを望んだりしない。……そもそも、それ以上なにをするのかすらも、知らないだろう。 「僕たち、瞬き系カップルだねっ」  純真で、無垢で素直で可愛いコイツは……きっと、知らない。  ──俺がお前と【ナニ】をしたいかなんて。  馬鹿は依然、ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべている。  俺は視線を逸らし、学級日誌を書き上げた。その様子を見ていた馬鹿が、またもや瞳を輝かせて、俺を見る。 「終わった? じゃあ、一緒に帰ろうっ!」  陽だまりみたいな笑みを浮かべる馬鹿に、俺はなにも言わず、ジッと視線を送った。そんな俺に対して、笑みを浮かべたまま小首を傾げる仕草が……可愛くて仕方ない。  ──思わず、口を開いてしまった。 「【キス】とかけまして【瞬き】と解きます。さて、その心は?」  大きな瞳を丸くして、馬鹿がさっきとは反対の方向に首を傾げる。  答えが分からず、閉ざされたままの唇に。  ──俺は、触れるだけのキスを落とした。 「…………え……っ?」  目を見開いたまま、口をポカンと開けた馬鹿に、笑みを浮かべながら答えを囁く。 「──どちらも【気付いたらしていた】でしょう」  俺の答えを聞いても、馬鹿なコイツは目を見開いたままだ。 「意識しただろ?」  そう言う俺を見て、ようやくコイツは……瞬きをした。 【無垢な瞳が瞬く】 了

ともだちにシェアしよう!