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【無垢な瞳が瞬く】
◆小説用お題ったー。様より
~お題【無垢な瞳が瞬く】~
学級日誌を書いている俺の前に、一人の男子生徒が座っている。
何度も『先に帰っていい』と言ったのに、俺を待つものだから……俺はもう、なにも言わない。
ソイツは学級日誌に視線を落としながら、妙に瞳を輝かせていた。
「【一目惚れ】とかけまして【瞬き】と解きます」
そこで言葉を区切るということは、俺に話題を振っているということなのだろう。ペンを走らせながら、俺は決まった相槌を打つ。
「その心は?」
「どちらも【気付いたらしていた】でしょう」
馬鹿なコイツにしては、なかなか巧い謎掛けだ。
……だけど。
「ドヤ顔がムカつくから、二十点」
妙にキラキラした瞳で、ちょっと口角を上げながら俺を見る顔がムカつく。
だが、意地の悪い返答にも、コイツはキャッキャッと喜ぶ。
「ヤッタ! 前のテストより点数高い!」
……ヤッパリ、コイツは馬鹿だ。
妙にはしゃいでいる馬鹿を放っておいて、学級日誌に向き直る。そんな俺に倣って、馬鹿も学級日誌を見つめている。
だが、ただ待つだけなのは暇らしい。
「なんかさ~……? 僕と委員長の関係も、瞬きみたいだよね~?」
取り留めの無い話題を振られ、俺はペンを一度だけ止めた。
「付き合ってはいるけど、一緒に居てもそこまでドキドキしないって言うか……慣れって言うか、意識しなくなったって言うか? 当たり前になっているって感じ?」
毎日一緒に登下校して、手を繋ぎ、時々抱き締め合う。俺たちは実に、健全な交際をしているだろう。
頭がお花畑なコイツは、それ以上のことを望んだりしない。……そもそも、それ以上なにをするのかすらも、知らないだろう。
「僕たち、瞬き系カップルだねっ」
純真で、無垢で素直で可愛いコイツは……きっと、知らない。
──俺がお前と【ナニ】をしたいかなんて。
馬鹿は依然、ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべている。
俺は視線を逸らし、学級日誌を書き上げた。その様子を見ていた馬鹿が、またもや瞳を輝かせて、俺を見る。
「終わった? じゃあ、一緒に帰ろうっ!」
陽だまりみたいな笑みを浮かべる馬鹿に、俺はなにも言わず、ジッと視線を送った。そんな俺に対して、笑みを浮かべたまま小首を傾げる仕草が……可愛くて仕方ない。
──思わず、口を開いてしまった。
「【キス】とかけまして【瞬き】と解きます。さて、その心は?」
大きな瞳を丸くして、馬鹿がさっきとは反対の方向に首を傾げる。
答えが分からず、閉ざされたままの唇に。
──俺は、触れるだけのキスを落とした。
「…………え……っ?」
目を見開いたまま、口をポカンと開けた馬鹿に、笑みを浮かべながら答えを囁く。
「──どちらも【気付いたらしていた】でしょう」
俺の答えを聞いても、馬鹿なコイツは目を見開いたままだ。
「意識しただろ?」
そう言う俺を見て、ようやくコイツは……瞬きをした。
【無垢な瞳が瞬く】 了
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