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【ふたりぼっちな幸せ】

◆小説用お題ったー。様より ~お題【ふたりぼっちな幸せ】~ 『八月三十日、雨。マラソンの授業がなくなって嬉しかったね。クラスで一番喜んでいたのは、俺かな? 明日は晴れるといいよね』  ページを繰る音だけが、部屋に響く。  机上を照らすために光る照明が、ノートを眺める少年の笑みさえも、照らしていた。  お気に入りのボールペンを手に取り、少年は目を閉じる。  思い描くのは、今日の出来事だ。 『八月三十一日、雨』  そこまで書いて、手を止めた。  ──雨だったから、花火大会が中止になって残念だったと書こうか?  ──それとも、彼の寝癖がシュールだったと伝えた方が、いいかもしれない。  ──ヤッパリ、彼が知らない自分の日常を書いた方が喜ぶだろうか?  少年は宙を眺めた後、ノートに視線を落とす。  ……明日は、日曜日だ。天気予報は見ていないけれど、雨でも晴れでも構わない。  なぜなら、明日は彼の家でテレビゲームをするだけだから。  ボールペンを握り直し、真っ白なページに黒いインクを吸い込ませる。 『八月三十一日、雨。花火大会が中止になって、残念だったね。でも、君の可愛い寝癖を独り占めできたから、僕はちょっとだけ嬉しかったんだ。あ、そうそう。どうでもいいかもしれないけど、うちの晩ご飯はカレーだったよ。君の苦手な、辛口味』  気まぐれで始めた、二人だけの交換日記。  少年は愛おしそうに目を細めて、恒例となっている結びの文を記した。 『君と過ごせて、今日も幸せだった。昨日より、愛しているよ』  そのノートは。  二人の幸福を綴った、小さな世界の縮図。 【ふたりぼっちな幸せ】 了

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