6 / 62
【溶け出した苺のヨーグルトアイス】
◆小説用お題ったー。様より
~お題【溶け出した苺のヨーグルトアイス】~
整えられた髪型。
きめ細かい肌。
誰もが一度は振り返るような甘いフェイスは、ニコニコと感じのいい笑みを作っている。
その笑みに、青年と同じ部屋に居る壮年の男は、同性だというのに見惚れてしまいそうだった。
笑みを絶やさず、テーブルの上に肘を立てながら手を組む青年は、まるでモデルのようだ。
「君は、トロフィーマニアかい?」
壮年の男がそう言うと、青年は恥ずかしそうにはにかむ。
「あれっ、見ちゃいました? 最近手入れを怠っていて……やだな。誰かに見せるつもりはなかったのに……っ」
照れた様子の青年は、やはり絵になる。
もっと辱めたいという加虐心と、イケナイことを言ってしまったかのような罪悪感。
男は一度だけ、咳払いをして心を落ち着けた。
「僕、記念日とかを結構気にするんですよね。お揃いの物を買うのも好きだし、デートの記念に形として残るお土産を買ったり……女々しいって、笑いますか?」
男が首を横に振ると、青年は嬉しそうに笑う。
青年の言っていることは、ある意味的外れ。……そしてある意味、男の訊きたいことでもあった。
男は、青年の部屋を脳裏に思い浮かべる。
「あの部屋にあった物は、君にとっての記念品かい?」
はにかみながら、青年は頷いた。
それに対し、男はさらに追求する。
「どうやって手に入れた?」
予想外の問い掛けだったのか、青年は目を丸くした。
気の抜けた表情だというのに、やはり人を惹きつける魅力がある。間抜けな表情を浮かべたまま、青年は答えた。
「見ていたでしょう? スプーンですよ。お兄さんはやったことないんですか?」
「生憎とね」
「勿体無い!」
突如、大きな音が部屋に響く。……青年が、テーブルを叩いた音だ。
「真っ白なアイス──僕はヨーグルトアイスが好きなので、今はそう例えますね? 真っ白なヨーグルトアイスをスプーンでほじくって、底からイチゴソースが溢れてくるあのワクワク感……イメージできます?」
男は、小さく頷く。
「スプーンから、溶けたかのようにトロッと零れ落ちるヨーグルトアイス……あはっ。思い出しただけでドキドキしますねっ」
恍惚とした表情を浮かべた青年は、目の前に居る男を見ているようで……見ていない。
「僕はあの瞬間が大好きなんです。その証拠が【アレ】です」
あまりにも無邪気な笑みに、男は眉間に皺を寄せた。
──自分が見た物は『ヨーグルトアイス』なんていう、可愛らしい物じゃなかったからだ。
青年の部屋に並んでいた【記念品】を思い出す。
──片目を抑えて蹲る、大柄の男。
──スプーンを片手に【記念品】を眺める、青年の姿。
脳裏にその光景を思い浮かべてから、目の前で頬を紅潮させている青年を見つめ直す。
──その姿は……恋人である男の片目を、スプーンで抉り取った容疑者には……どうしても、見えなかった。
青年の部屋にあった【記念品】という名の、瓶に詰められた目玉を思い出す。
取り調べをしている男は……二度と、ヨーグルトアイスを食べられなさそうだ。
【溶け出した苺のヨーグルトアイス】 了
ともだちにシェアしよう!