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【あの人の浮気相手】

◆思い付きで書いた短編です。  一ヶ月前。  幼稚園から今の高校まで……ずっと友達だった幼馴染みの男に、告白された。  ……一応言っておくが、俺も男だ。つまるところ、幼馴染みはゲイだったらしい。……別に、引きはしないけど。  告白をされたのだから、返事をするのは当然だろう。  だから俺は、きちんと返事をした。 『──俺、付き合っている人がいるから』  ──断るための【口実】ではなく、本当の話。  ──ゲイだと知っても引かなかったのは、同じ穴の狢というやつだったから。  俺に振られた後『お前とアイツが一緒に歩いているところを見た』とか。あの人のことを『未成年のお前に手を出すなんてどうかしている』とか……幼馴染みが口にするのは、そんな話ばかり。  嫉妬なのか、なんなのか……幼馴染みの真意は、分からないけれど。  俺にとってはハッキリ言って、迷惑だった。  * * *  それから一ヶ月が経った現在。  幼馴染みがいつものように、声をかけてきた。 「──お前、浮気されてるぞ」  今回は、普段の話題とは趣向が違う。  幼馴染みの目は真剣で、俺とあの人の仲を引き裂こうという下心ではなく、心から心配してくれているのだろう。……そんな気がする。  ──まぁ、どうでもいいんだけど。 「だから?」  俺とあの人は、恋人だ。その事実は、変わらない。浮気だろうが、愛人だろうが……本命は俺だ。  月に一度しか会えないけれど、それは勉学の妨げにならないよう、配慮してくれているから。あの人だって、仕事が忙しい。  俺たちはお互いのことを想い合い、適切な距離感で交際を続けている。  それを壊したかったのか、はたまた付け入ろうとしたのかは分からない。それでも……さすがに今日のは、不愉快極まりない発言だ。 「あの人の一番は俺だよ。浮気が嘘か本当かは知らないけど、もう俺のことは放っておいて」  明日はあの人と会える日なのに、幼馴染みのせいで最悪の気分。  鞄を手に取って、教室を出る。外靴に履き替えた後、通学路を歩いた。  ……直前に聞かされた根も葉もない話が、妙にモヤモヤして仕方ない。  ふと顔を上げると、あの人によく似た後ろ姿を見つけた。  ──いや。似ているんじゃなくて、あの人だ。 「あ──」  声をかけようとして、体が硬直する。  幼馴染みの言っていた通りなのか……あの人の隣には、見知らぬ女の人が歩いていた。……二人共、幸せそうな笑みを浮かべている。  手を繋いで、まるで……恋人同士のようだ。  ──あの人の左手……薬指に、指輪がはめてある。 「……指輪なんて、初めて見た……」  そこで、やっと俺は気付いた。  ──幼馴染みは【嘘】を言っていたのだと。  ──浮気を『されて』いたんじゃない。  ──【俺自身】が、浮気相手なのだ。 【あの人の浮気相手】 了

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