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【ボクとぼく】
◆思い付きで書いた短編です。
産まれる前から、一緒だった。
そして……産まれた後も、ずっと一緒。
──同じ遺伝子。
──同じ顔。
──同じ服を着て。
──同じ髪型。
ボクたちは、双子だ。どっちが兄とか、どっちが弟とか……そんなことはどうだっていい。ボクがボクで、ぼくがぼくなら、それで十分。
それなのに、ぼくは突然変なことを言い出した。
「『どっちでもいい』って言われているみたいで、ヤダよ……っ」
誰がそんなことを言ったんだろう。
──ぼくはぼくだけど、ボクじゃない。
──ボクはボクだけど、ぼくじゃないんだ。
ぼくは泣きじゃくりながら、蹲っている。
……どうして泣いているのか、分からない。【分からない】ってことは、ボクはぼくじゃないってことだ。
……なら、それでいいじゃないか。
「ぼくはボクじゃないのに、ボクをぼくって言う……もう、イヤだよ……っ」
明確な違いを提示できないほど、ボクとぼくは似ている。間違われるのは納得できるけど、ぼくはそれが嫌なんだ。
──泣かないでほしい。
だから強く抱き締めたのに、ぼくは泣き止まない。
「怖い、怖いよ……っ」
ボクがいるのに、なにが怖いの?
ボクだけは、ぼくがぼくだって分かっているんだよ?
そう言ったって、きっとぼくは泣き止まない。ぼくはずっと、悲しんだままだ。
ぼくがボクを突き放し、頭を掻きむしる。
だからボクは、ぼくに言う。
「ぼくがボクじゃないって証明するためなら、ボクはなんだってするよ」
大好きなぼくのためなら、ボクはなんだってしたい。……なんだって、できる。
きっとぼくは、ぼくがぼくだって証明する方法を知っているんだ。だから、泣いている。
──自己の確立が、一番怖いことだから。
「──ぼくはボクを消してしまうのが、一番怖いよ……っ」
間違われないことにも、ぼくは怯えているんだね。
【ボクとぼく】 了
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