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【全部最初に言えよッ!】
◆自分で考えたお題より
~お題【そのままがいい】~
──絵のモデルなんて絶対ムリだッ!
そう怒鳴って、一時間後。……さて、俺はどうしたと思う?
ヒント。一回一万円を払うと言われた。
……まぁ、引き受けるわな、モデル。だって、一万円だぜ? ただジッとしているだけで一万円ってすげぇよな、マジで。
というわけで、意気揚々とアイツの家へ出向いたわけよ! ……手土産は持ってないぜ、当然だろう?
これがBL小説なら、まぁヌードモデル一択だろうが……お生憎様、これは現実。
しかも! 俺とアイツはただの友人だ!
「じゃあ、そこ座って」
「おう!」
ストンと椅子に座り、数時間。
……一万円貰えるとしても、まぁ苦行。動いたらメチャクチャ鋭く睨まれるからな、マジで。
一時間に一回、五分の休憩がもらえる。んで、五分経ったらまたモデルとして座っているだけ。
まぁ、うん。一万円のためなら、えんやこら。そんな感じで初日が終了。
……そう、初日【が】だ。
「──また来週も、頼んでいい?」
──また絵のモデルかよッ! ムリムリッ、結構しんどいッ!
そう怒鳴って一週間後。……さて、俺はどうしたと思う?
ヒント。次は二万円払うと言われた。
……まぁ、引き受けるわな。正直、特に予定とかないからな。
ただボーッと過ごすのとジッと座っているのなら、友人のためにジ~ッと座っている方がいいだろ?
というわけで、ルンルン気分で出向いてやったぜ! ……ちなみに、今回は手土産を持って行った。缶コーヒーをな!
「じゃあ、そこ座って。……あと僕、コーヒー飲めないから、要らない」
「くそったれッ!」
前回はピシッと膝を合わせて座ったが、今回は脚を開いて座ってやるッ!
でも、コイツはなにも言わない。前回と同じように、淡々と絵を描き始めた。
……んん? これでいいのか? 俺、メチャクチャ横柄な態度だぞ?
とかなんとか思いつつ、前回と同じようなタイムスケジュールでモデル業を終え、帰ろうとしたとき。
「──また来週も、頼んでいい?」
──ウソだろ、三回目もかよッ! ムリだって、ムリムリッ! 俺、ジッとしてるの苦手なんだってマジでッ!
そう怒鳴って一週間後。……いや、もうお察しの通り。
「お邪魔しまぁあすッ!」
まぁ、引き受けるわな。今度はお茶菓子も出すって言われたからな、引き受けるしかねぇんだよなぁこれが。
ちなみに、今度は手土産に紅茶を持ってきたぜ? 名前に【午後】って入ってるあの紅茶な?
「じゃあ、そこ座って。……あと僕、紅茶飲めないから、要らない」
「先週のコーヒーと同じタイミングで、ついでに言っとけよッ!」
もう怒ったぞ。俺は椅子に座らず、アイツが普段使っているであろうベッドに寝そべってやったぜ。
……それでも、アイツは筆を動かし始めた。
「…………なぁ、ワガママ絵師様よぉ」
「口、動かさないで」
「ケチかよ、一個くらい質問させろ。……お前、さっき『座って』っつったよな? でも俺、今寝そべってんだけど……お前は、これでいいのか?」
筆を止めて、男はジッと俺を観察する。
そして、たっぷりと時間をかけてから、男は答えた。
「──うん。……それがいい」
いつも仏頂面か無表情な辛気臭いコイツの、はにかむような笑顔つきで。
……えっ、いやいや。
「お前、笑えるのかよッ!」
「元の姿勢に戻れないくせして、上体起こすとかありえないんだけど。……はぁ、描き直しだ」
「いやッ、座ってる絵が描きたかったくせに寝そべっててもいいなら、もうなんだっていいだろォがッ!」
怒鳴り散らす俺を見て、男は小首を傾げた。
「──なにを言っているの。僕は【座っている男】の絵じゃなくて【君】が描きたいのだけれど」
「……はァアッ?」
「だから早くポーズとってよ、ワガママモデル様」
筆の先を向けて、男は不機嫌そうに俺を睨む。
──いや、えっ、えぇぇ……っ?
さっきの可愛い笑顔はなんだったんだ? ……いやいや、なんだよ『可愛い』ってッ!
つぅか、えッ? コイツ、俺を描きたかったの? え? はッ?
鋭く睨まれ、その圧に負けた俺は……もう一度寝そべる。
……そう、だな。うん。
とりあえず……紅茶を二本飲み干してから、考えようか。
【全部最初に言えよッ!】 了
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