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【虚構世界とコンクリートと曇天と】

◆自分で考えたお題より ~お題【青くない空】~  一人の青年が、空を眺めていた。  なんの面白みもない、曇天の空だ。分厚い雲が、青空を覆い隠している。  ──その空は、あまりにも……寂しい。  青年はぼんやりと空を眺め、そっと手を伸ばした。  ──その瞬間だ。 「──うわぁぁあああッ!」 「──ッ!」  ──一人の少年が、空から落ちてきたのは。  少年の背中には、ちっぽけな羽が生えている。その羽は、成人男性の手ぐらいの大きさだ。  形のいい頭には、丸型蛍光灯のようなものも浮いている。  少年は無様に落下してきたかと思いきや、青年が寝そべるコンクリートの上に着地する。  ……瞬間に、ふわりと、浮いた。 「……ふぅ。間一髪でしたっ!」 「えっ、なにっ? ……オジサン、こういう非現実的なことは信じない主義なんだけどっ?」 「それはとっても損な主義なのですっ!」 「おぉ……っ? 会話はできるのか、それなら安心だ」  少年はコンクリートにふわりと着地した後、小さな胸をムンッと張る。  コンクリートの上で寝そべっている青年を、少年は立ったまま見下ろした。 「初めましてっ! ボクは天使ですっ!」 「えぇぇ……ッ? 非現実の象徴みたいな自己紹介……」  青年はげんなりしたまま、少年──自称天使を見上げる。 「……ン? 今【天使】っつったか? もしかしてオジサン、天国に連れてかれるの?」 「はいっ!」 「即答する天使こえぇ……ッ」  青年は天使を見上げ続けるかと思いきや。……そのまま、空を眺めた。 「……っつぅことは、だ。オジサンは……空に、行けるのか」 「そうなりますですねっ!」 「そいつぁイイ話だな。実にフィクションくせぇ」  そのまま「嫌いじゃないがな」と付け足し、青年は曇天の空に向かい、もう一度だけ手を伸ばす。 「──なら、俺をあの雲の向こうまで連れてってくれ。……正直、こんな霊体じゃなぁんにもできなくて、暇してたんだよ」  空に手を伸ばしても、青年の手はなにも掴まない。  ──空から降り注ぐ雨粒すらも、その手では触れることができなかった。  しかし天使は、首を横に振る。 「──ムリなのですっ! ボクは【願いを叶えた幽霊さん】をお空の向こうに連れて行く存在なのですからっ! そして、ターゲットの幽霊さんが願いを叶えるまで、ボクは全力でサポートする存在でもあるのですよっ!」  天使の言葉に、男は破顔した。 「ハハッ! そうかッ、そいつぁ参ったなッ! それじゃぁ、俺はいつまで経ってもその条件を満たせねぇッ! ……俺の願いは【空の向こうに行くこと】だからな」  すると、天使も笑みを浮かべる。 「それはとっても困ったのですっ! それじゃあ、ボクはいつまで経ってもオジサンを監視しなくちゃいけないのですよっ!」 「おぉッ? いいねぇ? こう見えてオジサンはな、可愛い子なら男女関係なく愛せるんだぜ?」 「可愛い天使でもですかっ?」 「幽霊なのに天使を差別するのは男らしくねぇだろぉよ?」  少年は笑みを浮かべたまま、その場にしゃがみ込んだ。  そんな少年に向かい、青年は手を伸ばす。 「まぁ、非現実的な存在同士……仲良くしよぉぜ、天使チャン」  久し振りに、青年が触れたのは……。 「こちらこそ、よろしくお願いいたしますですっ!」  雲のように柔らかい、天使の頬だった。 【虚構世界とコンクリートと曇天と】 了

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