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【希死念慮】
◆自分で考えたお題より
~お題【二人だけの嘘ってことで】~
その時。
明るい髪の男が、笑った。
「──オレ、アンタのためならウソの自白……してやってもいいよォ?」
それは、取調室でのこと。
初めのうちは、口を閉ざしていた。
それから少しして、否定の言葉。
──そして、これだ。
青年の取り調べを担当している壮年の男が、青年を見る。
「いきなりなんの真似だ」
「ン~? ベッタベタなセリフだけど……【愛の力】かなァ?」
「……は、っ?」
全く口を割らない青年の取り調べにあたったのは、三人の男だった。ちなみに、この壮年の男が、三人目。
青年はピアスのついた口を動かし、楽し気に語る。
「オレさ、知ってるんだよねェ~? こォゆゥ取り調べのときって、容疑者の好みっぽォい奴をあてがうんでしょォ? よくできてるシステムだよなァ? ゴーリテキ!」
壮年の男は、閉口した。
そんな様子すらも楽しいのか、青年は笑っている。
「つまり、だ! オレは見事、好みの男をあてがわれちまったってワケ!」
──まさに【軽薄】。
青年はただ純粋に、取り調べを担当しているこの男に、惚れただけ。
──つまり、実際に罪は犯していないのだ。
「アンタ、オレの自白……ほしいっしょォ?」
「……」
「だからオレ、アンタのために自白するよ。……ホラ、笑って笑ってェ?」
青年は、冗談を言っているように見える。……が、冗談では、ない。
──本気で【嘘の】自白をしようとしているのだ。
「命を懸けて、アンタに『好き』って伝えてやるよ。……っつっても、社会的に死ぬだけだけどォ? ギャハハッ!」
「……なにが、可笑しい?」
これから罪人となり、世間から向けられる目も、なにもかもが変わってしまうというのに。
青年はゲラゲラと笑いながら、男を見つめた。
「イヤァ、ごめんごめん! なんか、犯罪者になるのって簡単なコトなんだなァって思ったら、笑っちった」
「どういう意味か、分かって言っているのか」
「ウン、モチロン」
声を弾ませながら、青年は男にウインクを向ける。
「──オレの命、アンタに捧げるよ。アンタのために、死んでやる」
人は、この男を見て、どう思うのだろう。
出会って、数分。自白をしたって、この青年にはなんの得もない。取り調べを担当している壮年の男と、結ばれるわけでもないのだ。
──なのに……青年は、犯してもいない罪の自白をする。
「……本当に、するのか」
壮年の男が訊ねると、青年はにんまりと笑う。
「ウン、するよォ? アンタのためなら、死ぬのは惜しくないからねェ?」
そう言い、青年は……正面に座る男に向かって、投げキスを送った。
──見た目は軽薄。
──口調もやはり、軽薄そのもの。
けれど、その青年は……。
──どんな男よりも、誠実だった。
【希死念慮】 了
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