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【クリスマスプレゼント】 後編

◆いつぞやに書いた短編です。  サンタというのは、毎年こんな気持ちになっているのだろうか。  ──いや。……たぶん、違う。  きっとサンタは、こんなふうに胸をドキドキなんてさせない。  ──俺はこのサンタに、惹かれているのか……っ?  ──住所不定のこの、怪しいサンタに? だからこんなに、気持ちがフワフワしているのか?  黙り込んだ俺を眺めて、サンタが口を開く。 「……今年のプレゼント、渡してもいいかな?」 「え……っ?」  サンタは立ち上がって、俺の手をとった。そして俺の手を、自身の胸にそっと当てさせる。  さっきまで袋の中を漁っていたのはなんだったのか……サンタはその手に、なにも持っていなかった。 「……サン、タ?」 「あげるよ」  サンタは俺の耳元で、低く、囁く。 「──俺の気持ち……大人になった君に、あげるね……っ?」  瞬間。……顔が一気に熱くなったと、気付いた。  鏡を見なくても、分かる。それほどの、熱さだ。 「な、に……言って……っ!」 「ねぇ、期待していいんだよね?」  指を絡めて、サンタは言う。 「さっきからチラチラ見てる、あの小さな箱。……サンタさんに、くれるんでしょ?」 「ッ!」  思わず、息を呑んだ。  サンタが見ているのは、机の上に置いてある小さな赤い箱。それは俺が、サンタのために用意したプレゼントだ。  どうやら俺は、無意識のうちにチラチラとその箱を見てしまっていたらしい。目は口程になんとやら、というやつだ。  なにか言おうと唇を動かしたが、恨めしいことに言葉が出てこない。  ──だから。 「……っ」  ──小さく。  ──コクリと、頷いてみせた。  そんな俺を見たサンタは、箱を手に取り、許可も取らずにリボンをほどく。 「……可愛い」  中に入っていたのは、小さなピアスだ。  シンプルで、どの服にも合わせられそうなデザインだと思う。  サンタのくせにチャラいこの男は、耳にピアスの穴をあけている。だから、きっとこういう装飾品が好きなんだろうと思って、買ってしまった。  普段着を知らないからこそ、シンプルなデザインのコレしか選べなかったけれど……問題無かったらしい。うっとりとした様子でピアスを眺めているのが、なによりの証拠だ。 「用事が済んだなら、サッサと帰って……っ」  俺はプレゼントを渡した。サンタだって、プレゼントっぽいなにかを言ってきたんだ。  もう、これで今年は終わり。  ──なのに、サンタは帰ろうとしない。 「駄目。……まだ、気持ちに対しての答えがない」  あろうことか、押し付けてきたプレゼントという名の【気持ち】に、返事を求めてきたのだ。  冷めかけていた顔の熱が、再び戻ってくる。 「プレゼントに、見返りを求めるんですか?」 「そうなるね。ははっ、サンタさん失格……かな?」  サンタは落ち込んだ様子で、自嘲気味に笑った。  俺は椅子を回し、サンタと向き合う。 「はい、失格です」 「手厳しいなぁ」  今度は、困ったように笑っている。……この自称サンタは、表情がくるくる変わるから面白い。  ──それに感化されて、俺もついつい笑ってしまう。 「だから、新しい役職をプレゼントしてあげますよ」  サンタの目が驚きで見開かれたのは、次の瞬間。しかしそれは、俺のセリフに驚いたんじゃない。  ──サンタの温かな唇に、俺がキスを落としたからだ。 「【俺の恋人】っていう役職。……今だけのプレゼントですよ?」  サンタは驚いたような顔をした後に、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。 「サンタさんの初めても、プレゼントしていいかな?」 「下ネタですか……」  呆れつつも、立ち上がってベッドに誘う。 「俺も、初めてです。……男にされるなんて」 「今年はプレゼントが多いね」  唇を重ねて、互いに微笑んで……どちらからともなく、囁いた。 「「メリークリスマス」」 【クリスマスプレゼント】 了

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