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【ごめんね、来ちゃった(曜日擬人化)】

◆いつぞやに書いた短編です。  日曜日の、二十三時五十九分。  ぼくこと──月曜日はいつも、憂鬱だ。 『──お前なんて、大嫌いなんだよ!』  毎週のように言われる、その言葉。  火曜日さんに水曜日部長、木曜日先生に金曜日先輩……。皆は、そんなこと『言われたことない』って言っていた。  なのに、どうしてぼくだけ言われちゃうんだろう……っ? 「……明日になったらまた、行かなくちゃ……っ」  ぼくは内心でため息を吐いてから、立ち上がった。 「おっ? もうそろそろ日曜日ちゃん帰ってくるんじゃねっ?」  一番人気のホスト的存在、土曜日くんは時計を見ながらそう言う。  来てくれたら嬉しくて、だけど別れるのは辛い。まるでアイドルのような日曜日ちゃんとぼくは、正反対だ。 『──行かないでくれ!』  日曜日ちゃんはそう言われて、引き留められるくらいなのに。  ……そろそろ、ぼくと交代だ。 「朝になったらまた、言われるのかな……っ?」  毎回のように吐かれる、暴言。……考えるだけで、涙が出そうだ。  本当はぼくも、皆に好かれる土曜日くんみたいになりたいのに……っ。  そんなことを考えて、今度こそぼくは彼の自室へ向かった。  * * *  翌日の朝。  ぼくはベッドの近くに立ち、彼が起きるのを待った。  ──寝ているときは、無害なのになぁ……。  今日は、なんて言われるんだろう。もう、月曜日なんて辞めちゃいたいよ……っ。  そんなことを言っていてもしょうがない。……そうとは、分かっている。  でも、でも……っ。 「ん……っ」 「ッ!」  ──彼が、起きた。  彼は公務員で、役場に勤めている。まだ若い彼は、仕事よりも遊ぶ方が好きで、当然だけど日曜日ちゃんのファンだ。  ──そして勿論、ぼくのことは大嫌い。  そんな彼の眉が寄せられ、閉じられた目が開かれる。 「んぁ……?」 「あっ、えっと……その……っ」  ──目が、しっかりと合った。  『どうしよう』と思ったところで、逃げるわけにはいかない。……かっ、覚悟を決めようっ!  ぼくは涙目になりながらも、彼の目を見つめ返した。  ──すると、予想外の反応が返ってくる。 「あぁ。……おはよ」 「ふぇ……っ?」  そう言って、彼はぼくを引き寄せて。……背中を、ポンポンと叩いてくれた。 「……えっ?」  ──思考が、追いつかない。  ぼくは真っ赤になりながらも、彼を見た。 「いっ、嫌じゃないの……?」 「ん?」 「ぼっ、ぼく……月曜日だよっ?」  少し距離をとって、ぼくは確認する。  寝ぼけて、ぼくのことを日曜日ちゃんだと思っているのではないか。  ──気付いてから暴言を吐かれるのは、嫌だ。  ──だったら……最初から、期待したくない。  すると、彼は言った。 「知ってる、けど?」 「し、って……。なっ、なんで……っ?」  彼はぼくの頭をくしゃくしゃに撫でてから、小さく微笑む。 「来てくれてありがとな」  ──今、彼は……なんて、言ったの……っ?  ぼくは、彼の目を見つめる。  目が合うと、いつもは嫌そうな顔をするのに……今日は、どうしちゃったのだろう。 「ん?」  ──笑顔を、返してくれるなんて。  状況がまったく分からなくて、ぼくは困惑した表情のまま彼を見てしまう。  その笑顔を……嘘とは、思えない。  ──つまり、つまり……っ! 「……ゆっ、夢……みた、い……っ」  ──本当に、ぼくは彼に歓迎されているんだ……っ!  ぼくは彼に抱きついて、泣き笑いのような表情を浮かべてしまう。 「えぅ……えへへっ」 「なんだよ?」 「う、嬉しくて……っ」  ぼくは顔を上げて彼を見た。 「ねっ、ねぇっ? ……ぼくが来てくれて、嬉しいっ?」 「当たり前だろ」  ──嬉しい、嬉しいっ!  ぼくは調子に乗って、もうひとつ質問した。 「こっ、これからも来てほしいっ?」  すると彼は、ハッキリ答える。 「──あ? 嫌に決まってんだろ」  ──それで思い出した。  ──今日は、祝日だ。 【ごめんね、来ちゃった(曜日擬人化)】 了

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