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【嘘吐きは誰?】
◆いつぞやに書いた短編です。
──好きなんです、先生のことが。
それは、中学生の僕が抱くには早すぎる感情だったと、毎日思う。
──僕は、先生が好き。
──大好きなんです。
「好きですよ、先生」
笑顔でそう言う僕に、先生は『反吐が出る』とでも言いたげな顔を向けてくる。
「……気持ち悪い」
先生はいつだって、僕の告白には迷惑そうな顔をするんだ。だから僕は、笑い続ける。
──僕の本心を【嘘という嘘】に隠して。
「あはっ、冗談ですから安心してください?」
──本当は、大好き。
だけど『これが本心だ』と、言えるわけがない。
いつも『気持ち悪い』と一刀両断されて、その度に『嘘ですよ』と言い続け……。正直なところ、僕の心はボロボロだ。
気持ちを、黙っていたらいいのかもしれないけれど……それは、無理。
──口に出さないと、おかしくなりそうで。
「はぁ……っ」
生徒の前だっていうのに、先生は煙草を吸い続ける。煙を吐くと、いつもの冷たい視線で僕を見つめた。
そんなことにも、僕の胸は高鳴ってしまうのに……。
「嘘なら、わざわざこうして言う必要ないだろ」
──嘘じゃない。
本当は頭を撫でられたいし、抱き締められたい。キスだってされたいし、エッチなこともしてほしいんだ。
……そのくらい、好きで好きで堪らないのに。
顔には嘘の仮面を貼り付けているけど、言葉には……なにも、付けていない。
──本心、なんだ。
それでもいつか『言う必要がない』って、言われると思っていた。
「えへっ」
──先生は、意地悪だ。
例えこれが嘘の【好き】だとしても、少しくらい喜んでくれたっていいじゃないか。
「いや『えへっ』じゃなくて……」
「口癖みたいなものですよ」
「それは困った口癖だな」
そんなに、僕の気持ちは迷惑なのかな。
なんで、先生はちっとも喜んでくれないのだろう。
──僕が、男だから?
──それとも僕が、中学生だからかな?
僕は、ジッと先生を見つめた。
──怖いけど、訊いてみたいことがある。
──どんな現実でも、受け止める覚悟はあるから。
「……な、んで、気持ち悪いんですか?」
──あぁ、情けない。
──声、震えてるじゃんか。
仮面が剥がれて、バレてしまう。
先生は僕の仮面が剥がれていく様を、じっくりと眺めているんだろう。俯いた僕の頭上から、先生の素っ気無い声が降り注いだ。
「勘違いすんなよ。……気持ち悪いのは、お前じゃない」
「え……っ?」
──ガシッと、頭を掴まれる。
なにごとかと思う前に、ガシガシと……乱暴に、撫でられた。
「中学生相手に発情とか、ただのショタコンだろ?」
僕は思わず、先生を見上げてしまう。
目が合いそうになると、無理矢理下を向かされた。
「ちょっ、ちょっと……っ! せっ、先生っ!」
「黙れ」
「待って、分かんない……先生ったら……っ!」
……嘘っ? こんなの、嘘だ……っ!
──だって、それじゃあ、まるで……っ!
「……おい」
カタカタと震える僕から、先生が手を離す。
不機嫌そうな呼び声に、体と同様、声も震えた。
「はっ、はい……っ」
「手、離したんだからこっち向けよ」
「むっ、無理……です……っ」
ずっと、僕が『好き』と言う度に、先生はドキドキ、していたのかな?
先生は、ずっと、僕のことを……っ?
──嘘を吐いていたのは……先生、だったの?
「こっち向かねぇと宿題出すぞ」
「そっ、それは嫌……です」
「なら向け」
僕は恐る恐る、先生を見上げる。
背の高い先生の顔が目の前にあって、唇に温かいものが触れた。
──これは、夢?
──これが、嘘なの……っ?
僕は、先生のスーツをキュッと掴むと……。
……『嘘もいいかな』と思って、目を閉じた。
【嘘吐きは誰?】 了
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