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【陰キャは学級委員長と話してはいけない!】
◆思い付きで書いた短編です。
それは、二人きりの教室での出来事だ。
「お前さ? クラスでもぼっちでスクールカースト最下層、オマケに陰キャで野暮ったい見た目をしてるよな?」
「まぁ、そうだね」
「だよな? そうだよな?」
スマホでゲームをしながら、コイツは答える。その動きがさらに、俺の怒りを煽っているとも知らずに。
ゲームをプレイする手は止めず、コイツは「でもさ」と続ける。
「オレがそういうキャラだとしても、誰にも迷惑かけてないならそれでよくない?」
「はぁッ? かけてんだよ、バーカッ!」
机を思いきり叩いても、コイツは怯まない。……むしろ、パズルゲームでコンボを決めているくらいだ。
連続して消えていくピースのようなものを眺めながら、コイツはため息を吐く。
「はぁ……っ。……どこらへんがですかね」
「な……ッ! 敬語使うんじゃねェよ、気持ちわりぃッ!」
「めんどくさいなぁ……」
そうは言うくせに、俺には一切視線を向けない。……ムカつく。
だからもう一度、机を思いきり叩いてやった。
「お前さぁッ! クラスで一番人気の女──学級委員長様と、楽しそォ~に喋ってたよなァッ?」
「あぁ、さっきね。……それが?」
「『それが?』……じゃねェんだよバカッ!」
どれだけ怒鳴っても、コイツは顔を上げない。作業のように指を動かしながら、俺の相手をしている。
おそらく……メインはゲームで、サブが俺だろう。
──それも、全然面白くねェ。
「お前みたいな奴が、学級委員長と仲良く喋ってんじゃねェよッ! 迷惑だろォがッ!」
「いや、別に。クラスでオレだけがノート提出してないからせっつかれただけだけど」
「ノートくらい出せやボケッ! ヤッパリ迷惑かけてんじゃねェかッ!」
「うっわ、墓穴掘ったわぁ」
とか言うくせに、まったく焦った様子を見せない。たぶんコイツは、誰にどれだけ怒鳴られても動じないんだろう。
……ゲームで対戦相手に負けたときくらいは、動揺するかもしれねェな。
でも、俺は怒ってるんだぞ? もう少し動揺したって──。
「……あのさぁ」
コイツの指が、動きを止めた。
そして、ついに──。
「──素直に『ヤキモチを焼いちゃうから俺以外の奴と喋らないで』って言えないの?」
──顔を、上げた。
なんて……最悪な、タイミング。
「はッ、はァッ? なッ、なに、い……ッ! バッ、バッカじゃねェのバッカじゃねェのッ!」
顔が熱くなっているのをどうにもできず、俺はコイツと見つめ合う。
迷惑そうに「うるさいなぁ」とか言いながら、コイツは……笑った。
「まぁ、そういうところも可愛くて好きだよ、オレは」
「かわ……ッ!」
「お前は? オレのこと、好きなんじゃないの?」
「はァッ?」
机の上に置いていた手が、ツンツンと突っつかれる。
ニヤニヤと笑うコイツが、ムカつくのに……ッ!
……ヤッパリ俺は、目を逸らせない。
「……ッ、お、俺ッ、は……ッ!」
「なに、好きじゃないの? じゃあ、別れ──」
「そッ、それはイヤだッ!」
慌てて、コイツの手を掴む。
「す、好き……ッ! 好きだから、俺以外の奴と……あ、あんまり、喋んなよ……ッ」
俺の声を聞き、コイツは……。
「……ふっ、知ってるっつの、ばぁか」
するりと、俺の手を握った。
ようやく、コイツが顔を上げたのは……それは、ゲームをプレイし終わったタイミング。
いつもはゲームがメインのくせに、今だけは……俺だけを、見ている。
泥みたいに濁った目が細められると、俺はどうしたって……目を、逸らせないんだ。
【陰キャは学級委員長と話してはいけない!】 了
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