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【ハッピーエンドと誰が決めた】 2

◆いつぞやに書いた短編です。 『白雪姫~! 僕たち、ちょっと熊を狩りに行ってくるね』  なんともたくましい小人たちがそう言ったのは、早朝のこと。  オレは小人たちに作ってもらった朝ごはんを食べながら、数回、頷いた。 『オッケー、小人たち。……なんかやっておくこととかあるか?』  職なし、資格なし、特技もなし。  秀でているのは継母が嫉妬に狂い、羨みまくるほどの美貌。  そんなオレでも、一応【善】の心はある。  ……つまり、一宿一飯の恩を毎日返したいという気持ちはあるってことだ。 『窓拭き』 『キッチンの掃除』 『ジャグリング』  小人たちは口々に、オレへのオーダーを伝えた。  ……まるで、しりとりだな。  というか、最後のジャグリングって何だ? しりとりにしたいがために、ムリヤリつけたんじゃないか? 『無理矢理じゃないよ、白雪姫』 『何で心を読めるんだろうなぁ、この小人たちは』 『小人だからだよ、白雪姫』 『あ~、完全に理解したわ~』  オレは苦笑しつつも、すぐさま了承。  それから、少しして。  オレは小人たちを、気持ちよく見送った。  ──そこまでは、良かったんだ。  * * *  窓拭きを終えたオレは、キッチンの掃除に勤しむ。  部屋の掃除とかは今よりもっとガキの頃から苦手だったけど、キッチンとかの掃除は割と好きだぜ?  だって、水垢を見てなにかを懐かしむなんてこと、ないだろう?  鼻歌交じりにシンクを磨くこと、数分。  突然、小人たちのではない声が響いた。 『誰かいませんか?』  それは空腹を感じ始めた、昼過ぎ。  誰かが、扉を叩いた。……おそらく、声の主だろう。  声からして、女のようだ。  来客自体が珍しい、この森林。  オレはキッチンの掃除を一旦やめて、呼ばれるがままに外へ出た。 『うぃーっす、留守番でーす』 『これは、ご丁寧に。……私は、一切合切全く怪しくない素敵で優しいリンゴ売りです』  黒いフードを深くかぶった女がそう、挨拶をする。  手には、リンゴがたくさん入ったカゴ。  …………ゴクリ。  ……イヤ。イヤイヤ、ダメだぜ、オレ!  いくら美味しそうなリンゴでも、知らない人からいきなり購入するなんてできない!  小人たちには『白雪姫は社会的常識が欠如しまくってるから、安易に人と会話したら危険だよ』って、メチャクチャに注意されてるし!  そもそも金がねぇッ!  ……誰が社会的常識の欠如しまくったクソニートだってッ? 『あの、もし』 『あァ?』 『ひ……っ! 白雪姫……屋敷からいなくなったこの数日間で、いったいなにがあったの……?』  リンゴ売りのオバサンは、フードの下でなにかをモゴモゴ言っている。  もちろん、頭の中がリンゴと怒りでいっぱいのオレには、よく聞こえなかった。

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