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【ハッピーエンドと誰が決めた】 3

◆いつぞやに書いた短編です。  心の葛藤が聞こえていないオバサンは、リンゴを一つ、オレに手渡す。 『ひとつどうですか?』 『い……らない、です』  ツルツルで、ピカピカの、リンゴ。  あやうく首を縦に振るところだったオレは、なんとか断る。  そこで不意に、小人の言葉を思い出した。 『──はっ!』 『実際に、はっ、ていう人……初めて見ました』  オバサンがなにやら言っているが、知ったことじゃない。  オレはオバサンが持っているリンゴを指さして、怒鳴るように叫んだ。 『──五つほど貸していただけますかねぇッ!』 『はっ、はいぃっ!』  ワケも分かっていないだろうオバサンは、ビクリと体を震わせる。  そのまま、まるで反射行動かのように……オバサンはリンゴを五つ、オレに手渡してくれた。 『あざッス!』  お礼に、渾身のスマイル。ニカッ!  ……何でだろう。オバサンが『こんなに野蛮な子だったかしら』って呟いている気がする。  個人的に完璧すぎる微笑みを向けた後、オレは一度、リンゴを地面に置いた。  そして、急いで物置へ向かう。  オバサンが困惑した顔で見ているが、今はそれどころじゃない。 『お待たせッ!』  オレは、物置でずっと眠っていたある道具。  ──【一輪車】を、押して戻ってきた。 『やってやるぜッ! 存分になァッ!』  そして、オレは。  ──ジャグリングを、始めた。 『……はああああっ?』  これは小人が残した、オレへの仕事。  何で、ジャグリングをしなくちゃならないのか。  そもそも、オーダーしてきた小人本人には見られてもいないのに、律儀にジャグリングをする必要性などなど。  オレはそれらを、頭の片隅からデリートした。  オバサンが、おおよそ女性が出さないような声を出している。  ……フム。そんなにオレの玉──じゃなかった。リンゴさばきは凄いってことか?  伊達に日頃から、あの七人の小人に変なことを要求されているわけじゃないんだぜ……!  オレのリンゴさばきに、オバサンは絶句している。  そこでふと、魔が差した。  ──もしかして、このジャグリングに満足してくれたら……リンゴを一つ、貰えるのでは? と。 『俄然やる気が上がったぜッ!』 『今のどのあたりで!』  オレは一心不乱に、リンゴをお手玉のように扱う。  シュッ、シュッシュッ、シュ……っとな。  ……コレは、意外と……? 『た……楽しい、だと……ッ!』 『見たらわかるわよ! 私、全然ついていけないわ!』 『オバサン、このリンゴ……カットしていいかッ!』 『えっ、あ……えぇ……?』  フードの下から、ポカンと開いた口が見える。  どんな表情をしているのかは、よく分からないけど……きっと、喜んでくれているのだろう。  オバサンは小さな声で『好きにして……』と、許可をくれたくらいだからな!

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