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【疲労と夏と男の娘】
◆Twitterにて、フォロワー様からいただいたイラストで思い付いた短編です。
昨日の夜。
恋人が、ふと『残業続きで疲れた』と言っていて。あまつさえ『癒しがほしい』なんて言っていたものだから。
僕は僕なりに考えて、熟考して、思案して。
──迷走、してしまったのかもしれない。
「──信じられねぇくらい最高な気分なんだが」
ビール片手にそう呟く彼の顔を、僕は直視できなかった。
「そっ、そんなにじっくり見られると……困っちゃう、よ」
「いやいや。見ない方が失礼だろ?」
時間は、深夜。場所は、僕らが暮らすアパートの一室。
帰ってきて遅めの夕飯を食べ始めた彼に『見てほしいものがある』と言ったのは、間違いなく僕だ。
……だけど。
「──せっかくお前が積極的に【女物の水着】を用意してくれたんだからよ?」
そんなにじっくり見られるだなんて、思っていなかった。
彼はまるで『酒のつまみ』とでも言いたげに、僕のことをじっと見ている。
……そう。
──女の子が着るような水着を着ている、僕を。
「これはっ、その……っ」
喜んで、もらえたら。少しでも疲れが飛んでくれたら嬉しいな、って。たったその一心で、迷走に迷走を重ねてしまった自覚はある。
結果として彼が喜んでくれているのだから、結果オーライと言えなくもないだろう。
だけど、一度冷静になると……ヤッパリ、恥ずかしいものは恥ずかしい。
いたたまれない気持ちで立っていると、彼はグビグビとビールを飲み進める。……その動きも、なんだか恥ずかしい。
「……よしっ!」
不意に、彼がなにかを決意した。
そっと顔を上げて、僕は彼を見る。
「元気、出た?」
こうなったらもう、ヤケだ。ここで『イエス』という答えが聞けたのならば、それでもういい。
案の定、彼は頷いてくれた。
「おう! そりゃもうハチャメチャに!」
「ほっ、ほんと? なら、良か──」
その瞬間。
「──バリバリのギンギンだっ! ベッド行くぞっ!」
──豪快に、彼が上着を脱いだではないか。
状況が理解できず、僕は思わず数歩、後退。
「えっ、なっ、なんでっ?」
「そこに可愛い恋人がいるからだな!」
「でっ、でもっ! まだ、ご飯が──」
「もう食い終わった! ご馳走様っ!」
「いっ、いつの間に……っ」
このままじゃ、本当にベッドへ連れて行かれてしまう。
そうなると、せっかく『癒してあげたい』と思って用意したこの恥ずかしい恰好が、まるで『誘っている』という名目で用意した感じになってしまいそうで。
「えっと、えーっと……! さっ、最近、疲れてるんだよねっ? だから、そういうのはまた今度に──」
「ハハハッ! 恥じらう姿も可愛いぞ!」
「つっ、伝わってないっ!」
僕のセリフすらも【そういうもの】として受け取った彼は、僕の静止を聞かずに僕を抱えて、サッサと寝室へ向かってしまった。
……違う、違うよ! 僕は、こんなはずじゃなかったのにぃ~っ!
【疲労と夏と男の娘】 了
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