51 / 62

【夜空を見上げて、ふたり】

◆思い付きで書いた短編です。  夜空を見上げて、少年は。 「──星に祈る僕を、子供っぽいと……あなたは、笑いますか?」  そう言い、はにかんだ。  少年と共に草原に寝転んだ青年は、つまらなさそうに答える。 「別に。テメェが流れ星を探してようが、ひとりでブチブチ花占いしてようが、俺には関係ねェよ」 「それは……また少し、寂しいような……。……ほんの少しでもいいので、関心を向けられたいです……っ」 「別に『無関心だ』とは言ってないだろ。他の奴相手ならガッツリ引くしな」  草原に寝転がる少年は、夜空を見上げたままだ。 「……流れ星。なかなか、見当たりませんね」 「だから【願いが叶う】なんて迷信があるんだろ」 「夢がないですね……。あなたらしいとは思いますけど」 「うるせェ」  少年は、星々の輝きから目を逸らさない。そんな少年の横顔を、青年は覗き見た。  浮世離れしたその容姿に、瞳が奪われる。  すると……少年が、目を丸くした。 「あ……っ。……さすがに、速い……ですね」  どうやら、流れ星を見つけたらしい。  だが……願いを込めるには、その流れは速すぎたようだ。  目に見えて落ち込む少年を見て、青年は訊ねる。 「こんな寒い日に、わざわざ天体観測したがるなんてよ? そうまでして叶えたいテメェの願いってのは、いったいなんなんだ?」  少年は未だに、夜空を眺めたままだ。  だが、きちんと青年の声を聴いている。  その証拠に。 「──好きな人と、結ばれますように……と」  少年は、青年の問いかけに。……素直な答えを、返したのだから。 「あなたと、結ばれたいのです。……ですが、まだ僕には……そんな資格が、ありません。魅力も足りなければ、お店をひとつ経営しているあなたに釣り合う男でも、ありません。だから、せめて……到底不可能だと思われている【流れ星に願いを乗せる】という行為を果たすことができれば、あるいは……と」  静かな、声色。  それなのにそのセリフは……どこまでも、情熱的で。  青年は少年に倣い、夜空を見上げる。 「……そうかよ。なら、好きにしろ」 「はい。待っていてくださいね」  少年が口角を上げると同時に、星が……キラリと、瞬く。  流れ星を求める少年は、目を凝らした。  ──わざわざ、そんなことをしなくたって。  ──祈る必要なんざ、ないってのに……。  青年は、少年の手を握ろうとして。  ……そのまま、土の感触を楽しむことしかできない。 「こうして、あなたと星を眺められるだなんて……贅沢な夜ですね」  そう呟く、少年の方が。 「……そうだな」  たった数センチの隙間を埋めることすらできない青年よりも、強く。  ……立派な男に、見えた気がした。 【夜空を見上げて、ふたり】 了

ともだちにシェアしよう!