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【教えてほしい、本当のことを】
◆知り合いとの会話で思いついて書いた短編です。
車が、一台。
道路脇に、停車していた。
「あの車、さっきからずっと停まっているような……?」
コンビニ弁当を買おうと、俺はコンビニに向かったのだが……。その途中で、道路脇に停車しているあの車を見つけた。
すると、今。コンビニから帰っている途中にも……その車は、停車したままだったのだ。
「随分と長いな。……電話か?」
そんなことを考えつつ、俺は運転していた自分の車を、減速。
そして、ハザードランプを点けて停車しているその車に、俺はゆっくりと近付いた。
そのまま、そっと……運転席を覗き込んでみる。
そこで俺は、驚愕した。
「え……っ? だっ、大丈夫なのか……っ?」
運転席に座る青年と思しき人物は、ぐったりと項垂れていたのだ。
俺は慌てて車を停車し、運転席をコンコンとノックする。
「スッ、スミマセンッ! 大丈夫ですかッ!」
言うまでもないが、運転席の青年は知らない人だ。放っておいても、良かったのかもしれない。
けれど……気付いてしまったのだから、放っておけないだろう。
「起きてますかッ! 意識はありますかッ!」
声を張り上げると、青年がピクリと身じろぐ。
そして……ゆっくりと、俺に向かって顔を上げた。
「良かった……っ。とりあえず、意識はあるんだよな……っ?」
安心しきっているであろう俺の顔を見て、青年は瞳をパチパチと瞬かせている。
そのまま……。
──即座に、赤面した。
「……んんっ?」
ノックをやめて、俺は小首を傾げる。
青年はなぜか、視線を忙しな~く動かしていた。……いったい、どうしたのだろうか?
やがて、青年は運転席の窓を下げた。
けれど……青年は、なにも語らない。
「……あ、あの……っ? 大丈夫、ですか?」
「…………っ」
「もしかして、声が出せないほど具合が悪い……とか?」
そこで、ふと。
俺の視界に、予想外の物が飛び込んできた。
「……その、CDジャケットって?」
「あ……っ!」
俺の視線と、声。それらで、青年は気付いたのだろう。
──かなり過激なジャケットイラストが描かれている、CDの存在に。
青年は慌てて、CDを隠した。……肌色全開の男同士が、くんずほぐれつしているCDを……。
「……えっ、えぇっと……あの……っ?」
咄嗟の出来事で、うまく言葉が出てこない。
しかし……。
「……ぐっ、具合」
ようやく、青年が口を開く。
「具合が、悪いとかじゃ……なくて。……今日、発売したドラマCDが……あまりにも、尊くて……ちょっと、噛み締めていたと……申しますか……っ」
「車の中で、今のCDを……?」
「う……っ。……は、はい……っ」
「な、なるほどですね~……?」
言いたいことは、沢山ある。
だけど、俺が一番言いたいことは。
──訊きたい、ことは。
「──そのドラマCDの攻め役、俺なんですけど……お、面白かった……ですか……?」
自分の出演作が、車の運転ができなくなるほどの感動を与えられたのかどうか。
ただ、その一点だけだった。
【教えてほしい、本当のことを】 了
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