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004 君が使える手札の一つ1-3

「いずれ、正式な席を設けて話をしよう。……いいか、クロト?」    これは秘密の通路を使って王宮に侵入しろという指示だ。  通じるだろうかという戸惑いがわずかに陛下から感じられる。  俺は大丈夫だと肯定するよう「ええ」とうなずく。   「日差しが強い場所は苦手ですので、配慮いただけますと助かります」 「雨雲色の瞳は太陽と仲が悪いのか」    俺の瞳は灰色だ。光の加減で青みを帯びることもあるが、陛下やフォルクのような碧眼とはまた違う。  憂いを帯びた瞳で「大変だね」と目の下を軽く撫でられた。  高齢の先代に出来た待望の世継ぎであった陛下は若くして今の座に就かれた。  考えられないほどの苦労をされたのは間違いない。  陛下の思う大変さと自分の恵まれた環境に感謝しかない。   「薄曇りの方が過ごしやすくはありますが、太陽はお慕い申しております」    太陽はこの国では陛下のことを指す。  太陽を赤と表現する国があれば、黄色や黄金と表現する国もある。  我が国は王家の色彩を太陽として崇めている。    俺の返事はそうおかしなものではないが、陛下は目を細めてフォルクの頭を撫でて「苦労するぞ」と言った。  フォルクは苦さを含んだような、それに戸惑うような微妙な表情をしている。  気づかないうちに失言をしたのだろうか。   「正式な対面は数日後のミーデルガム家の茶会でしょうか」 「そういうことにしておいてくれ。今回の出会いは偶然だ。……ユースティティア嬢?」    俺と陛下の会話をボケっと聞いていたユーティが名前を呼ばれて背筋を正す。   「わかっています! だいじょうぶです。わたくし、三歳ではありません。いえ、三歳ですが、あの」 「大丈夫だよ、ユーティ。陛下には我々の事情をお話ししている。わかってくださっているよ」    焦って、涙目になるユーティを落ち着かせる。  今回、ユーティの話は全くできなかったが、父から陛下への説明は済んでいる。  以前のときは、ユーティの精神状態への心配をいただいたが、事実関係の詳細な説明を求められなかった。  七歳の子供に出来ることと出来ないことがあると陛下は知っている。    先程の会話は七歳の子供に向けた言葉ではない。  それがとても誇らしい。   「フォルクハルト様、友人としてこれからよろしくお願いします」    別れる前のよくある挨拶だと思うが、フォルクは痛みをこらえるような表情をした。  どうしたのかと思ったが、握手のために差し出した手が空ぶって恥ずかしい。  横から引っ張るように手をつかまれた。   「……カールハインツ様、今後なにかと妹と共に顔を合わせると思います。よろしくお願いしますね」 「カールと、カールと呼び捨てにしてください」 「はい、カール。俺のこともクロトと」    微笑むと顔を真っ赤にしたカールが俺の手を振り回す。  陛下が止めてくれなかったら、腕を痛めたかもしれない。  子供の全力はすごい。

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