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005 それが酷く妬ましい1-1  フォルクハルト視点

 経験から何か、悪いことが起こる予感がした。  父は国王という自分の立場を自覚している。  そのため表には出さないが、結果が分からないものを好む。  たとえばサイコロの目を当てるゲームなど偶然が絡むものを嗜んだ。    何がどう転ぶのか分からないというのは五歳のカールでも知っている父の口癖の一つだ。  祖父の代から仕えている人間は、父に対していつだって好意的で突飛な提案にすら喜んで従う。  連れまわされる俺とカールはいい迷惑だ。      忙しい父が昼寝をしていた俺とカールを起こしてまで、わざわざ散歩に行く。  ありえない。考えられない。  一緒に散歩に行きたいわけではない。  何かがある。  カールもそれは感じたようで不安げに俺を見た。    王宮の廊下は広く、働く者は多い。  父は公務の合間を縫って、子供を構う良い父親だと下働きの人間たちは感じるようだ。  外見がいいからだろう。みんな父に騙されいる。    雲の切れ間から降り注ぐ光。  どことなく幻想的で、象徴的。  何かが起こる予感は不穏なものから期待に変わっていた。    何気ない様子で立ち寄った庭園にクロト・プロセチアがいた。    地味な庭園のはずが、クロトが居たことで妖精の遊び場に変わっていた。  妖精は人の手が入りすぎた人工的な庭よりも、自然豊かな場所を好む。  美しい妖精のための秘密の庭。      初めて見た顔のはずなのに俺は不思議とクロトの名前を知っていた。  以前から友人候補として名前を聞いていたが、顔を合わせたのは初めてだ。  どこから彼の容姿について聞いていただろうか。    白に近い金髪と雲の色を思わせる薄い灰色の瞳。  赤みがかった金髪と赤褐色の瞳の妹がいるせいか、クロトはやけに白く感じた。  俺とクロトの会話を父が楽しみにしている気がしたのだが、三人で遊ぶようにと遠ざけられた。  予定外のトラブルでもあったのか、父が道楽に興じる顔を引っ込ませていた。    花を見ているように装いながら、二人が花の話をしていないのは父の様子からも分かる。  父は花になど興味がない。  だからこそ、花を見るための散歩など不自然なのだ。    クロトと会うためだというなら、クロトが父の享楽の被害者になるのかと思ったが、よくわからない。    二人の間に流れる空気は悪いものではなさそうに見える。  それが酷く妬ましい。   「……なんでだ」 「あにうえ? どうかされましたか?」    自分の感情に驚いている俺をカールが心配してくれる。  兄と離れて心細いのか、ユースティティアがカールの服の裾をつかんでいる。  年齢が近いので打ち解けたというよりは、目の前にあるからカールの服をつかんでいるのかもしれない。子供の行動は考えるだけ無駄だ。  

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