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005 それが酷く妬ましい1-2
「いいや、何でもない。……ユースティティア、君の兄はどんな人だ?」
父とクロトから目をそらす。
自然にできた気がする。
「あにうえ、その言い方は……ちょっと」
「三歳だったか。むずかしい質問なら、気にしないでいい」
俺の言葉を不快に思ったのか、顔を丸めた紙のようにしわを寄せる。
女子のする表情ではないが、三歳なら意味不明でも仕方がない。
カールだって三歳の頃は今ほど言葉が堪能ではなかった。
「おにいさまは、誰より、ゆうしゅうです」
「誰よりか。……三歳の君の世界ではそうかもしれないな」
「あにうえ、そんな言い方をしなくても――」
「優秀な人間はどこにでも、いくらでもいる」
そう言いながら父とクロトのほうを見る。
やけに二人の距離が近い。
王宮の庭園とはいえ、外に出ているとき用の仮面を被っているはずの父が、イタズラっぽく笑っている。
こちらを値踏みするような嫌な笑いではなく、興味をひかれて面白がっている。
とても珍しい。
それが、どうしようもなく不快だった。
父に対する嫌悪感など、俺が持つはずがない。
なら、クロトのことを嫌っているのだろうか。
よくわからない。
クロトのことなど知らない。
知らないはずなのに胸を締め付ける喪失感がある。
悔しさと悲しさと苛立ちが脳裏をよぎる。
同時に胸をときめかせる形容しがたい感情もあった。
まぶしそうにしているクロトに帽子を渡す。
それだけで、緊張してこちらをうかがうようだったクロトの態度が柔らかく変化した。
太陽よりも輝いている優しい微笑みに言葉を忘れた。
見惚れたのだと、後から気づいた。
この白昼夢は何だろう。
知らない記憶が体験したかのように身近にある。
「優秀であることに、意味などない」
口にしてから心の中で付け足す。
優秀であることに、意味などない。
優秀であるだけでは、何も手には入らない。
憎まれて、惜しまれて、縋りつかれたい。
誰に向けた願望なのかしばらく理解できなかった。
理解したくないのだと感じたのは、父がクロトにベタベタとくっついて、いやらしいくちづけをしていたからだ。
俺はこんな世界を求めていなかった。
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