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010.5 どんなときも君の幸せを願っているよ1-2

◆◆◆      記憶は未だに戻らず、とはいえ、やらなければならないことはいくつもあった。  その中で何度か知らない相手としてユーティと遭遇する。  泣き疲れた彼女は「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」そう謝罪を繰り返す。  それしか出来ることがなかった。    悲しみと苦しみと不幸が自分にだけ襲い掛かっている顔が不快だと誰かが彼女に石を投げる。  石を投げた相手を俺は処刑した。その権限があった。  感情の揺らぎだけで十分だった。  妹を守ろうとする無意識を記憶がない俺は理解できない。  俺が助けるたびにユーティは傷ついた。  記憶が戻ったのかと期待して、そこに兄である俺が居ないことに絶望する。    幼いころに生き別れた相手を心の拠り所にするぐらい、彼女の周りには誰も居なかったのだ。    ユーティは救いを求めていた。  ユーティは温もりを求めていた。  ユーティは寄り添ってくれる相手を求めていた。    ユースティティアが求めていたのは、彼女の兄であるクロト・プロセチアだ。  その世界には存在しない人間だった。     ◆◆◆      ほんの少しの衝撃に目が覚める。  馬車が止まった反動だと遅れて気づく。  思わず周囲を確認する。  ユーティの寝息が聞こえる。  体から力が抜けた。    ユーティと手をつないで少しの間、眠っていたようだ。  悪夢を見ているのか、ユーティの顔がおもしろいようにくしゃくしゃに歪んでいる。  淑女としてはありえない顔だが、三歳なので許容範囲だろう。    御者がひかえめに扉を叩く。  ユーティが寝ていることを言い訳にして、放っておくことにした。    馬車の移動など日常的なことだが、今日はいろんなことがあった。  さすがに七歳の体は疲れているらしい。すぐには立ち上がれない。  それでも、まだ今日は終わっていない。  やるべきことは残っている。   『君の泣かない世界を作ろう』    この決意は嘘にはならない。  きっと今の俺だけの願いではない。   「どんなときも君の幸せを願っているよ」    記憶がなかったとしても俺はそう思っていたはずだ。  

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