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015 生きていてよかった ボリス視点

 プロセチア家の庭園は王宮のものよりも立派だ。  少なくとも王都に行ったこともない領民たちは、そう思っている。  わがことのようにプロセチア家のことを自慢するのが領民にとっての常識だ。  プロセチア家以外の貴族連中は腐敗しており、他の貴族の領地に住んでいる人々はかわいそう。  それもまた常識だった。      プロセチア家に仕えることが出来る家に生まれたことを俺は誇りに思っていた。  庭師というのは、決して不遇な職ではない。  とくに広大な庭を持つプロセチア家からすると欠かすことが出来ない重要な職業だ。  植物は生き物だ。生き物を育てるには知識の積み重ねがいる。そのため庭師は替えが利かない。  庭師はそれぞれ独自のやり方で植物と向き合う。  そのため技術は秘匿とされる。  傲慢な貴族が庭師を首にして、花を枯らすことはよくあること。    プロセチア家の方々はそんなことはなさらない。  庭を愛し、植物を大切にして、花を愛でることを知っている。  そのため庭師の息子風情の俺のわがままを聞いてくださった。   「ボリス、髪の毛はゆっくりと丁寧にくしを入れなさい」 「はい、ティア様」    三歳児とはいえ、侯爵令嬢であるユースティティア様は俺とは全く違う生き物だ。  俺が三歳のころはもっと鼻たれのガキだった。  髪の手入れのことなど考えたこともない。    赤みがかった金髪はゆるく広がっていて、ティア様はそれを見苦しいとおっしゃる。  髪が広がらないように髪の毛を見えないように結んだり、髪留めを使う。  髪飾りは本当に飾りなので、髪を支えることはできない。  俺はそんなことも知らなかった。  無知な俺に呆れるでもなくティア様は丁寧に教えてくださる。  三歳児に仕事を教わる情けなさはクロト様を見ていると消えてしまう。  

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