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019 それも一つの選択1-1
ユストゥス・ララス・ミーデルガム――ユスおじさまは、ふくよかな方だ。
父曰く「自力で歩行しているのが理解に苦しむ醜悪な肉塊」だ。
陛下から聞いた話では、当主になるまで二人はそこそこ仲が良かったらしい。
父が時間を戻して、ユスおじさまとの付き合い方を変えたことが原因でこじれているのだろうと陛下は推察していた。
時間を戻したという父の主観的な情報を知らないユスおじさまからしたら、急に父に縁を切られたと感じたのかもしれない。それでも、息子の俺に対して父の悪口を言ってくることはない。むしろとても甘やかされている。
抱き上げてもらったままだとユスおじさまの腕が心配になるので「おじさまのお腹触りたいです」と言っておろしてもらう。
「お腹、ぽよんぽよんですね」
無遠慮にユスおじさまの出っ張ったお腹を押す。
体形について触れるのは跡継ぎとして養子にとったグラオラスやヴィータにも許されていない。
「動いたらボタンが弾け飛んでしまった」
「おじさま豪快ですね。格好いいです。さすがです」
その場でぴょんぴょん軽く跳ねる。
こうすると父から日ごろ小男と馬鹿にされているユスおじさまが、自分は身長が高いと勘違いできる。
生きていたらいずれユスおじさまの身長を俺は追い越してしまうだろう。その後も優しくし接してくれるかは分からないが、彼が死ぬようなことはあってはいけない。
ユスおじさまが死んだからこそ、俺は血を吐くような思いをしたのだ。
思い出しても悔しくて仕方がない。ユスおじさまさえ居てくれたら、あんなことにもそんなことにもならなかった。
「あ、ユスおじさま……初めましてでしょうか? 妹のユースティティアです」
俺の様子に面食らっているユーティを手招く。
アロイスは魂が抜けたように放心している。
「ユーティ?」
ハッとしたように呆然としているアロイスの手を引っ張ってユーティがやってきた。
教えておらずとも淑女のあいさつをするユーティ。
「お兄さまが……いつになく楽しげで、驚いてしまいましたわ。お兄さまととても親しいのですね」
言葉を選んでいるのがわかる。
ユーティの賢さに内心で拍手を送っていると「そうかそうか」とユスおじさまは嬉しそうに体をゆすった。
たぶん笑っているのだろう。
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