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019 それも一つの選択1-2

 見つめているとユスおじさまは手を叩いて使用人を呼びつけた。  手には輝く大きな魔石。  小さな国なら国ごと買い取れるレベルの品物だ。   「これをあげよう」 「ユスおじさま……」 「もちろん、これを理由に何かを頼んだり頼ることはない。すでに一筆書いている」 「陛下へは?」 「これよりも大きなものをお渡ししている。けれど、クロトはこういった色合いが好きだろう」    ふぉっふぉっふぉと人の悪い笑みを浮かべているユスおじさまに「はい、とても」と笑顔で返す。  魔石は大きさが価値に比例しない。  大きなクズ魔石もあれば、小さくて純度の高いものもある。  大きければいいものではないが、大きくて純度が高い魔石は国を滅ぼす兵器の動力として狙われやすい。    ユスおじさまには、詳細を伏せて獲物を吊り上げるための餌を貸して欲しいとお願いしていた。   「返す必要はない。わたしの気持ちとしてもらってくれ」 「そういうことでしたら、必ずお返ししなければ――いただいたままでしたら、おじさまに嫁がなければならなくなります」 「それも一つの選択だと思うのだが、あやつらが怒り狂うのが目に見えて……弱いわたしを許して欲しい」 「何かされそうになったらおじさまを刺してでも逃げろと短刀を渡されました」    教えるように腰のあたりを叩く。  俺に絡みつく視線は複数。  一番気配が隠れていたのは、室内からのものだ。  窓越しに見ている誰かはすぐに尻尾を出すだろうか。   「くっ! プロセチアのやつを財政難にしてやりたいっ。その後に金を貸し付けてデカい顔をしたい!」 「おじさまはお優しい方ですから、そんなことはできませんよ」    パンパンに腫れ上がったようなユスおじさまの指を握る。  ユーティにされて何とも言えない気持ちになったので、おじさまにもおすそ分けする。  にぎにぎしているとユスおじさまは転がった。   「はぅ、もう……一生手を洗わない」 「それは衛生上よくないです」    侯爵家当主が玄関先で寝転んでいる姿は異様だが、この場で一番上の人間だからこそ好き勝手な振る舞いが許されている。   「この流れでお渡しするものでもありませんが……こちらをどうぞ」    ユスおじさまの腕にはめられていた腕輪を一つ失敬して、代わりのように花で作った腕輪をハメる。  普通の神経であれば交換など言えるはずもないマジックアイテムの強奪。   「この花をクロトだと思って大切にしてください」    感動したように泣くおじさまを使用人たちは構うことなく起き上がらせ、ハンカチで目元をふく。  どんな主人だったとしても給金がいいところには優秀な人材がやってくるものだ。   「だいぜつにずる……うぐっ。その腕輪は、護衛の子にあげるといい。彼の実力は知らないが、壁ぐらい壊せるようになる」    泣きながらしゃべっていた主人を咎めるように執事が腰を叩いた。  すると感動の波が引いたように平常通りの対応になったユスおじさま。これは何度見ても面白い。     ◆◆◆     「お兄さま、あの――」    渡された魔石を持て余しているようなユーティに微笑んで「大丈夫」と告げる。  ユスおじさまは俺たちから何も奪わない。  奪う必要がない人だ。  子供ができる前に妻となった人が亡くなった。  後妻をとらないことを話題に上げる人間もいるが、陛下のこともあるので、表立っては誰も何も言えない。  跡継ぎとしての男女を養子に迎えているので、必要最低限は動いている。   「きちんと俺たちに無償で譲り渡すと書面で残しているから問題ないが、いざとなれば俺が本当にこの家に嫁いでもいい」    ユスおじさまからしたら冗談を真に受けられて困るかもしれないが、父に迷惑をかけずに済ませるなら俺自身を対価にするしかない。俺の発言にユーティは「そんなっ! 肉に身を捧げるなんて!!」と魔石を持って走りだそうとする。   「ユーティ、落ち着くんだ。おじさまは肉は肉でも良い肉だよ」 「おいしいものを食べているからですか?」 「高級食材だけを口にし続けて、ご立派なお姿になられた」 「ふあー、にくだぁ」    これはどういう反応なのだろう。  アロイスを見ると自分の腕にハマったマジックアイテムを見て「王都に一軒家を購入して家具をそろえてもお釣りが出る」と震えている。   「アロイス、おじさまがお前にそれを与えたのは恐縮させるためじゃない。俺たちの護衛がお前だけであることを慮ってくださったのだ」 「おもんばかる?」 「思いやってくださっているということだよ、ユーティ」    ユーティの疑問に答えるとアロイスが直角のお辞儀をした。  これから頑張るという意思表示かもしれないが、廊下の奥から歩いてきたフォルクがぎょっとしているので止めさせたほうがいいだろう。    

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