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022 俺が嫌った人間の筆頭1-2
「きらい、か」
怒るか悲しむか、反応としてはどちらかだと思ったのだが、なぜかフォルクハルトは笑った。
心底嬉しそうな笑い方は、面白いものを見つけたときの陛下に似ていた。
「お前、人を嫌うことができるのか」
「――そうですね、できますよ?」
この会話を盗み聞いている司祭であるオピオンなど、俺が嫌った人間の筆頭だ。
彼は俺を神と呼び心酔するのだが、ミーデルガム家が衰退する要因であり、初めて殺意を持って対峙した人間でもある。
俺を慕い、崇める彼を俺は殺した。
直接手を下したわけではないが、彼が死ぬことを分かった上で死地へと向かわせた。
あの日々の苦労の発端になった人間だから、彼を嫌ったわけではない。
彼はプロセチア家の領地で少女を無作為に拉致して、犯しては殺して捨てた。
そのことで彼へ怒りを向けたわけではない。
彼の生涯は同情に値するものだ。
少年であったオピオンは父親から性的な虐待を受けていた。
青年になった今も整った顔立ちなので、昔の可憐さは想像できる。
実父からの性的な接触など俺には想像できないが、宗教家にはよくあるらしい。
不特定多数の人間との性行為は禁止しているが、近親者とならば許可されているという教義は少なくないという。
彼の不幸は父親からだけではなく、姉からも性的な虐待を受けていたことだ。
姉は父親の欲求が自分に向かないよう、オピオンを差し出していたのかもしれない。
自分を守るための行動かもしれない、そう弟として思いたい気持ちを姉の笑みが踏みにじる。
姉は楽しそうにオピオンを凌辱したという。
彼は自分が汚されたという事実を払拭するために少女をさらい、犯し、捨てる。
自分を汚した姉を汚し返すようにトラウマとなった時期の姉と同じような幼い少女をターゲットにした。
領地の風紀を乱す殺人を容認などしないが、彼の生涯は同情に値する。
だが、ユースティティアをさらった時点で、彼の生涯が如何に同情できるものであろうと何も感じない。
目の前で繰り広げられた懺悔に心を動かされることはなかった。
眠らされていただけで、ユーティは何もされていない。
それは結果論だ。
俺が間に合ったからユーティが無事であっただけだ。
間に合わなかった場合を想像するなど吐き気がする。
彼の嘘のない俺への崇拝や能力の高さを理解した上でなお、俺は憎しみを飼いならせなかった。
殺意に突き動かされたのは、オピオンに対してだけだ。
短慮だと思い返すこともある。
自分にしては、珍しすぎることだ。
優秀な人材を捨て駒にした。
人を殺してしまった実感は後悔と共に平穏を俺にもたらした。
フォルクハルトと重ね合わせればよく分かる。
ユースティティアに危害を加えるような人間を放っておくのは気持ちが悪いのだ。
オピオンが俺への信仰により、姉と類似点を見出した少女を犯して殺すことをやめたとしても、一度でもユーティをそういった目で見た人間だ。近くに居て欲しくなかった。消えてもらいたかった。
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