53 / 65

024 俺の婚約者になれ

 ユーティの優しさや勇気を無駄にはしたくないが、オピオンと一緒にいてもらうわけにはいかない。  信用できない上に話さなければならないことがある。  悩む時間はない。  返事に間が出来てしまえばユーティの表情はくもるだろう。  そんな顔はさせたくない。   「、妹をお願いできるかな?」    顔の前で両手を合わせて少し首をかしげて見上げるように視線を合わせる。  捕まれていた手を自然と外しながらのおねだりポーズ。  陛下から困ったときに使うといいと教えられていた。  以前は一度も使ったことがなかったが、陛下の指導の下なんども練習したのだから完璧なはずだ。   「おまえ……良い根性してるな」    呆然とした声とは裏腹に徐々に頬に赤みが広がる。  見つめ続けると目が泳ぎ始めた。  これはいける。   「ねえ、フォルク」    まばたきをしないと瞳が潤むので角度と合わせて、ちょうどいいらしい。  何がちょうどいいのかは、分からないが物事は実践あるのみだ。  必要なことだからこそ、陛下は教えてくださったのだろう。  間違いはない。   「……わかったよ。その代わり、カールと何を話したのか聞かせてもらうからな」 「それはちょっと難しいかな」 「なら、お前、俺の婚約者になれ」    意味が分からず、表情が一瞬固まってしまった。  咳ばらいをして「どうして?」とたずねる。  誤魔化すためではなく、仕切り直しだ。   「カールが侯爵家の女と婚約を発表したら、王位継承権第一位がカールであると誰もが思うだろう」 「ちゃんと危機感を持たれたのですね」    つい、拍手をしてしまった。  ムッとした顔でにらみつけられてしまった。  バカにしたわけではなく褒めたのだが、フォルクは七歳で取り返しがつかないほどひねくれてしまっている。   「格としてはミーデルガムがプロセチアより上だとしても養子であるヴィータよりも――」 「ダメですわっ。だめっ。ぜったいに、だめっ」 「ユーティ……?」 「あいのない、そんな、そんなことっ」    ほっぺたを真っ赤にするほど興奮しているユーティに「大丈夫だよ」と微笑みかける。  信じてもらえなかったのか、ユーティはハッとしたように手元の魔石を見つめて「これをあげますから、おにいさまは諦めてください」と言った。それはマズい。   「ユーティ――」 「……そうか、わかった。妹のお守りをしておいてやる」    ユーティの手から魔石をとりあげて「いくぞ、妹」と茶会の会場として開放されている区画へフォルクは歩いていった。戸惑いながらもアロイスを連れてユーティも後を追う。    魔石を返してくれと言えば、返してやるから婚約しろという話になるのかもしれない。  フォルクを頼ろうとしたのは俺なので、ユーティは悪くない。    最悪、魔石はフォルクを込みで餌として活用しよう。  第一王子に何かあったら問題だが、だからこそ、一網打尽に出来る。  

ともだちにシェアしよう!