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028 妖精の吹き溜まり

 この世界はどの国も正式名よりも国としての特徴を国名代わりに呼んでいる。  我が国なら【磁場狂い】【才能殺し】【妖精の吹き溜まり】【はみ出し者の祝福の地】このあたりが誰もが使う言い回しだ。    これらは、どれもほぼ同じ意味の言葉になっている。  おとぎ話の雰囲気がある【妖精の吹き溜まり】なんかは【はみ出し者の祝福の地】と同じだと言われている。  人間をいたずらっ子で勝手気ままな妖精に例えていること思えば、はみ出し者を綺麗な言い方にしたに過ぎないことが分かる。    俺は妖精から妖精目線でも同じ意味だと教えられた。  妖精の国から弾かれた問題児が地上でイタズラを繰り広げているという。    時間を戻す前に俺が過ごしていた世界で、妖精には大変困らされたが、助けられもした。    人間の目では確認できない妖精の国と重なっていることで起こる異変が、我が国の【磁場狂い】による【才能殺し】だ。それが同時に【はみ出し者の祝福の地】にもなる皮肉を含んでいるが、今は関係ない。    ティメオのようにカラーバッシングを受けておらずとも、呪いで死にかけている人間は我が国にやってくる。  呪いの種類にもよるが、磁場狂いの影響で呪いが無効化されたり症状が軽くなる。  これはある種の賭けだ。  場合によって、国に入った時点で呪いの効果が跳ねあがったり、歪んだりして命を落とす可能性がある。    何かをして、呪われそうという状況で我が国に入り込み、潜伏する訳ありの人間も多い。  不法入国は重罪だし、見つけ次第、現場判断での処刑もありえる。  正当な手続きによって移住しても、問題行動を起こせば領主の権限で国外追放や処刑は少なくない。    貴族が守るのは、貴族の暮らしと貴族を支える庶民の暮らしだ。  領主は領民の生活が豊かになるために心を砕いて働いたりしない。  領主がするのは、領民が不満を溜めないように適度に仕事をしているように見せることだ。    磁場狂いの影響なのか、豊かな大地を有している我が国は飢え知らずだ。  これは良い部分と悪い部分がある。  生活が楽になると心の生まれる余裕から人は怠惰になる。  あるいは「よりよい未来」という夢物語で上の人間を攻撃してくる。  贅沢、浪費、幸福に上限はない。    ほんのすこし満たされない程度が一番、庶民のためになる。  過度な貧困はよくないが、幸福を感じられないのは不幸なことだ。  自分の努力により、到達できる程度の場所に成功者としての幸せを貴族は庶民に用意してあげるべきだ。      妖精の国とは不可視の世界。  おとぎ話で語られる幻想の場所。  だが、妖精自体は広く認知されている。  迷信に近いものもあるが、存在しない幻想生物とは思われていない。      プロセチア家は上下関係はしっかりしているが、領民とは友好的な関係を築いている。  彼らは自分たちの幸福を疑うことなく、怠けることなく日々の労働を楽しみながら生きている。    そこで、ミーデルガム家での工作を終えたオピオンがやってきて妖精の国についての話をした。  司祭として人々を幸福に導くのは当然のことだ。  愛すべき領民たちは親愛なるプロセチア家のために更なる幸福を探して妖精の国を目指した。    ミーデルガム家の悪い噂の数々に自分たちの領主がプロセチア家の人間で良かったという感謝をささげるために妖精を虐殺した。妖精を殺すことで妖精の国への扉が開かれると司祭に説かれれば、疑問はない。それは嘘だ。愛すべき隣人である妖精を殺すことに違和感を覚えないようにオピオンは聴衆の心をいじったのだろう。    プロセチア家のためという名目で行われた妖精への虐殺と侵略は、妖精の国が本当にあるなら戦争になるのも仕方がない。  だが、さまざまな理由で、戦争は起こらなかった。  事件自体を水際で止めることはできなかったが、最悪は回避できた。   「イラプセル。君の出番には、まだ早いはずだ」    目の前に居るのはカールであるはずだが、オピオンが『ここに居ない』と表現するなら第二王子のカールハインツと呼ぶべきではない。    イラプセルとは、王家の人間の姓にあたるものだが国名と同じく正式な書類以外で見ることがない。  だが、子供でもイラプセルの名は知っている。  妖精王の名前として、おとぎ話で頻繁に登場する。   「依り代としてカールを選びたがるのは分かる。けれど、その子はまだ五歳だ。連れていかないでくれ」    目の前に居るのに居ない。  それは、陛下が俺を襲撃者から守るためにおこなったことで知った妖精の国の存在。  おとぎ話ではなく、この国は妖精の国と重なっている。重なっているので、妖精の国に行くことは可能だ。  方法は、妖精を殺害するなんてものではない。    妖精に愛されているかどうかが鍵らしい。    王家の人間は姓に妖精王の名前を名乗ることが許されているように愛されている。  コツはいるようだが、自分の感覚で妖精の国に入り込むことができる。  本来の用途とは違うと陛下は笑っていたが、妖精の国に行ける特性を使って物理攻撃が受けないようにできる。その場にいるように見えて、実際は重なり合っている妖精の国にいる。    魔法や魔術や呪術が利かない。  その上、妖精の国に逃げ込めてしまえば物理攻撃も受けない。  陛下は国内にいる限り、誰にも傷つけられない。    そして陛下に出来ることは、第二王子であるカールもできる。  ただ、自分の力で妖精の国に訪れているわけではないなら、それはもうカールとは呼べない。    オピオンの想像通りに中身が違う。  妖精王、イラプセルは肉体を持たない。  妖精の国から出ないのなら肉体を必要としない。  そのため、俺たちと会話をしようとするのなら妖精の国に引き込むか、人の体を乗っ取るしかない。  妖精の国に出入りできる、王家の血筋を受け継いでいる人間は乗っ取りやすいらしい。  時間を戻す前はフォルクが乗っ取られていた。  

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