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031 妖精の関与1-1

 イラプセルとは、王族の姓にあたるものだ。  庶民には知られていないかもしれないが、貴族なら誰でも知っている。  けれど、王族の姓としてイラプセルを使うことはほぼない。    正式な書類以外で姓として見ることはないが、イラプセルという名前の知名度は高い。    妖精王の名前として、おとぎ話やそれを元にした小説でイラプセルの名は頻繁に登場する。  演劇の題材になることも多い。    そんな、みんなにおなじみなイラプセルは、子供たちの英雄だ。    我が国は娯楽を制限しているわけではないが、他国のように公営ギャンブルに力を入れていない。  時間を戻す前にフォルクが好んでいたような、殴り合いの鑑賞は基本的に野蛮なものだと認識されている。  書物もあまり過激な内容は好まれない。    例外がイラプセルだ。  イラプセルが題材のものに限っては、野蛮で、官能的な表現も発行部数が制限されることはない。    庶民も貴族も関係なく、妖精王の英雄譚に子供たちは憧れる。  破天荒で突飛で強くて美しい妖精王。    俺も少なからずイラプセルに憧れがあった。  フォルクを依り代にしたイラプセルと対面した時は場違いに興奮した。  理想とは崩れるもので、イラプセルは確かに英雄ではあったが隣に居たい人物ではなかった。  その行動を物語として読むのなら面白いかもしれないが、一緒にいては振り回されるだけだ。  俺の人間的な器が足りないのだろう。    妖精なので人間の常識など知らないのは当たり前だ。  人前でくちづけてみたり、指を甘噛みしてくる。  こういったことは、婚約者といえども人前でするべきではない。  とくに、見た目がフォルクだとしても、中身はイラプセルならば肌を許すのはおかしい。    拒絶すると国を滅ぼそうとするのだから恐ろしい。    誘導して、妥協点を探って、なんとかイラプセルをフォルクの体から追い出すことに成功したが、その後はその後で大変だった。    イラプセルが居ないはずなのにフォルクはイラプセルと同じ行動をしようとする。  もちろん、人目を理由に断ったが、フォルクの機嫌は最悪になった。  荒れていると表現するような状態になっていたが、妖精ではなく人間ならば常識を持って行動して欲しい。  

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