63 / 65

032 利己的な俺1-1

   ユーティの近くにアロイスとゾフィアとフォルクが居るらしい。  カールが教えてくれた。    ヴィータの部屋で拘束されていたカールが知るはずのない情報だ。    疑うべきところだが、言い方が気になったので探りを入れると誰かから教えられたのだという。  俺の疑問に答えてくれる声があるという。  言い難そうにカール自身の疑問には答えてくれないと言う。    カールとの会話の直前に俺はユーティへの心配を口にした。  それに対して楽しそうにしているという答えをカールが中継してくれた。  こういうことをするのは、まず間違いなく妖精だ。  妖精の声をカールは聞いている。    オピオンにカールの状態をたずねると俺と手をつないでいる限り、基本的にここに居るらしい。  逆に俺が手を放すと目視できても、感覚の上では捕捉できなくなる。    手を握っていてもときどき存在が薄まるようだが、どうにかするなら出来ると言った。  俺がカールに触れている限り、オピオンの力が届く。  これはとても重要な意味を持つ。    オピオンの力を使って婚約という約束を無効にするのは簡単になった。    カールと婚約したくないわけではないが、ユーティにショックを与えたくない。  出来るなら避けておきたい。  約束した手前、ユーティの耳に入らない状況をカールと協力して作るつもりではいるが、その後が考えどころだ。    ユーティの婚約者としてカールが相応しくないなら、俺がカールの婚約者になってもいい気がする。  だが、それはユーティが俺に求めるものとは違う。  ユーティが俺に求めているのは、打算や妥協ではない。    真実の愛なんてものは分からないが、ユーティのためを思えば幸せな俺の姿を見せなければいけない。    なんの発表もなしに今回の茶会は終われない。    いつもの茶会ではないのは集められた貴族たちは知っている。  ミーデルガム家の茶会の主催がユスおじさまだからだ。  社交的なおじさまの義妹が取り仕切っているわけではない。  ユスおじさま自身が茶会を開いている。  俺がミーデルガム家の城で茶会をしたいとお願いしたからだが、招待客にはおかしな空気がある。    ユーティとアロイスとフォルクが去ったあとのオピオンとのやりとりの最中、顔に覚えのある少年たちが通り過ぎていた。伯爵家以上の長男次男が多かった。両親と一緒か、従者を連れて十歳以下の子供が集う。    誰もが何かの発表があると察しているはずだ。    カールが提案した通り、今回のミーデルガム家の茶会の理由として「侯爵家と第二王子の婚約発表」をヴィータではなく、俺にしても違和感はない。    以前に俺とフォルクの婚約発表をミーデルガム家の茶会の席でさせてもらった。    プロセチア家とミーデルガム家の不仲は誰もが知っているところではあるが、俺とユスおじさまが良好だというのも知られている。  茶会をプロセチア家が主催するよりもミーデルガム家に任せているほうが、侯爵家と王家の婚約を貴族全体が歓迎している雰囲気なる。    小さなことだが、こういうことは大切な手順だ。  大人はみんな守っている。

ともだちにシェアしよう!