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032 利己的な俺1-2
「クロト……、クロトの嫌な想像は当たるかもしれない」
「何か動きが?」
「兄上が、ユーティとの婚約を発表している」
「間を持たせるための冗談か?」
茶会と言っても、座ってお茶を楽しむ席ではない。
立食型のパーティーだ。
好きに飲んで食べて談笑する。
その中で場を盛り上げるための第一王子の言葉は意味を成さない。
楽器の演奏でもしつつ、ユーティをお姫様あつかいして道化を演じているのだろう。
相手が本気で取り合わないようにする話術や見せ方は七歳だとしても分かっているはずだ。
派手な見た目と存在感の強さをフォルクはちゃんと理解している。
逆に真面目な話をするのが苦手だ。
本人が真面目だとしても、全然そんな雰囲気にならない。
俺も見誤って何度も「それって何の冗談?」と悪気なくフォルクを傷つけてしまった。
フォルクの言うことは、冗談じゃなかったら意味が分からないことも多い。
「俺とカールの婚約を発表させないためか、発表してもそれも冗談にするためかな」
すでにフォルクが手を打ってしまったのなら、俺とカールの婚約も発表しつつ、本当はどうなるのか分からないと煙に巻いてしまうのがいいかもしれない。
カールの不満そうな顔に「どうかした?」と聞くと「楽しそうな顔をした」と返された。
「兄上が賢いと、クロトは嬉しい」
「それは誰かから聞いたこと?」
「それもあるけど、今のクロトを見てると」
「……そっか。俺はカールが賢くても嬉しいよ」
微笑むと「ずるい」と言われる。
くちびるを尖らせる子供っぽい仕草は、五歳ということを考えると似合っている。
第二王子としては、教育係に直されるかもしれないが愛らしいと思う。
先程から廊下を小走りで移動しながら、カールの話を聞いている。
この段階でカールがこの状態になった理由や原因を予想を立てる。
オピオンを使って、カールの状態を調査しているのできっと間違いない。
「カール、俺は今のカールのことを好ましく思っている」
「やっぱり?」
この返しには疑問を挟みたくなる。
だが、話が進まないので黙っておく。
不満そうな顔から一転して、かわいらしい上機嫌な顔になっている。
「でも、ずっとカールの手を握っているわけにはいかない」
「どうして?」
「服を着るとき、手を握っていては出来ないよ」
「手をつないでいても、だいじょうぶな服を作らせよう」
ほのぼのふわふわしているようでいてカールも王族だった。
自分が動くのではなく他人を動かそうとする。
「走っていて汗もかいたから、手が気持ち悪くなっていない?」
「クロトの汗ならぜんぜん平気!」
イラプセルとは別の方向で話にならない。
カールの物分かりが悪いはずがないので、これはわざとだ。
「ずっと俺と一緒にいて、俺だけのものになって」
「それはカールの意思なのか?」
「クロトがいると、しずかで居心地がいい」
妖精の国にいると妖精がうるさいということだろうか。
陛下も必要最低限で済ませないと言っていた。
カールは人格にまで影響を及ぼしているので、妖精の国に行かないようにする方法を陛下から教えてもらうべきだ。
「一緒にいたいだけなら、友人でも同じだろう」
「ううん、ちがう。足りないよ。そんなんじゃ、足りないんだ。だから、結婚する」
「結婚は出来ないよ。俺が七歳で、カールは五歳だからね」
「婚約だったら、クロトは後からどうにでもできるって思ってる」
「そうだね。俺はカールを利用してる」
隠すことなく告げる。気分を害することもなく「自分の得にならない人が好きじゃないものね」と冷静に返される。嫌な感じではない。利己的な俺のことをカールは好いているようだ。
「兄上に、誰かが情報を流して……動かした」
「そうでなければ、俺とカールの婚約を想像するのは突飛すぎるからね」
本気でユーティとフォルクが婚約をするというのはありえない。
陛下や俺を通さないで三歳のユーティとの婚約が確定するはずがない。
「ん……クロトが疑問に思ったから、おしえてくれた」
俺に疑問を抱かせるための会話だったらしい。
やはり、カールは賢い。妖精から解放されれば王に向いている。
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