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第3話

思わず叫びだしそうになる驚きに硬直していると切らした息を肩で強引に整えながら久住は「あんた大丈夫?」と苦しそうに言った。 こちらのセリフですけどという前置きを飲み込んで「何が?」と清平は返した。 「あんた泣いてた。だから大丈夫?」 箇条書きの文章のように聞かれ、やっぱり見られていたんだと顔が赤くなる 「別に泣いてない 見間違いじゃないか?」 「ふーん でも目真っ赤だけど?」 思わず逸らしてしまった顔を覗き込むようにして揶揄され、睨む。 「お前には関係ないだろう」 「はぁ?やっぱり泣いてたんじゃん...それになにそれ せっかく人が心配してきてやったのに」 なのに何その態度とあきれた顔をされて、同じ言葉を返したくなった。 こんな風に人に絡まれたことは今までなくて、適当にいなせばいいのについムキになって対応してしまう。 だいたいこっちは3年で年上だし、一応部活動の先輩でもあるし、しかもそんなに話したこともないのにタメ口だし、わざわざこっちまできて何故いきなりデリカシーのない質問をされないといけないんだ。 次から次へと湧いてくる不満が止まらなくて気分が悪い。 顔も見たくないような気持ちになって目の前の男の横を通り過ぎようとしたが、腕を掴まれて戻された。 「痛い!急に何なんだ」 「話はまだ終わってない」 全く一体何なんだこの男は!いい加減にほっといてほしい。 走ってきたからかやけに熱い久住の掌の熱が不快で清平は自分の腕をつかんだままの手を強引に振り払おうと試みたが、久住には何のダメージもないようだった。 「何で泣いてたのか聞いてる」 先ほどと打って変わって揶揄するような色のない真剣な目で聞かれ、そのあまりの真剣さに怒りが困惑に様変わりする。 なんでこの男はこんなにも自分に構うんだ。 同じ部活動という以外接点などない筈なのに。 困ってる人をほっておけないタイプ?そんな風には見えないけれど。 困惑はどんどん色濃くなっていく。 そのままの姿勢で30秒ほど見つめあって根負けした清平はため息をついた。 「…言うから離せ」 そういうとあっさりと手を離した久住に一瞬面食らうが、このままでは埒があかなそうなので仕方なく久住に言った。 「明日大事な話がある 部室に来い」 「…大事な話?」 「そうだ 大事な話 絶対に来いよ その時に話す」 久住の連絡先を知らなくて一人だけメールを送れていなかったし、一応部員なんだから吉澤のことを知らせないわけにもいかない。いい機会だと急に思いついて適当に言い放ってこれで今度こそ話は終わりだと、急に大人しくなった男を置いて清平は階段を降りた。 靴箱の前の広場でたむろしていた連中の姿はもうなくなっていた。

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