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第4話
自分よりも15cm近く高い背の男の腕を引いて人気のない校内を歩く。
さっきの言葉の真意と目的を知りたくて、部室での一件がお開きになった途端、話があるとこの男ー久住良晴ーを連れ出した。
わざわざ腕まで引かなくてもいいと思うが、そう気づいた時には今更で、しかも離した途端、ならこの場で話せと言われたので仕方なくこの屈辱的な行為を受け入れた。
こんな目立つ男と言い争ってる場面なんて誰かに見られた日には翌日には全校生徒にその事実が知れ渡っていることだろう。
平凡な日常を愛する清平にそれはとてもリスキーだ。
ようやく辿り着いた奥の空き教室で久住の腕をすぐさま外し、問いただした。
「お前どういうつもりだ?」
「どういうつもりって?」
「ふざけるな お前が副部長だなんておかしいだろう これまでも真面目に部活動なんてしたことないくせに」
「そんなことない ほとんど毎日ちゃんと顔を出してた」
ああ言えばこう言う久住に苛立ちがこみ上げる。
「だとしてもお前が副部長をやるメリットはなんだ?目的は?」
「目的も何もあんたが誰かやらないかって聞いたんだろう 他に手を挙げるやついなさそうだったし あんたが困ってると思って手を差し伸べただけだ」
ぐうの音も出ない返答に言葉を失った清平にそんなことよりと久住は清平の肩を両手で掴んで視線を合わせて「昨日あんたが泣いてた理由って吉澤先輩のこと?」と問いかけた。
恥ずかしい記憶を掘り起こされて肩に置かれた手を振り払いながらバツが悪そうに「そうだよ」と清平は返した。
自分で聞いたくせに、久住はつまらなそうな、ほっとしたような複雑そうな顔を一瞬覗かせて一瞬で消した。
「とりあえず俺が副部長をやるってことでいいですね」
念を押すように言われて睨みつける。
本当に目的は何なんだ。自分が困っているから手を差し伸べただけじゃ絶対ない気がする。
第一困ってるところを助けるほど自分と久住の間に暖かいものは無い。
睨みつけた薄いブラウンの瞳には清平が掴みたい尻尾は微塵も見えなくて、追及する術を失い、不可解さや苛立ちが行き場を失って胸の中で暴れる。
冷静になれば、何か打破できるんじゃないかと時間を稼ぐ何かを探して教室内を見渡しても清平を助けてくれるものは何もなかった。
「わかった…今日来てないない部員たちにももう一回連絡してみてそれでも立候補者がいなかったらお前に決定する」
完全な負け惜しみだった。
「それってもう俺に決まったも同然だと思いますけど」
清平も同感だったが、もうこれしか反撃の術はなくて男の言葉を無視して
「明日もう一度話し合いをするからちゃんと明日来いよ 来なかったら違う人にするから忙しかったら無理しなくてもいいけど…」
情けなくつぶやいた清平に久住は吹き出し、声をあげて笑った
「絶対に行きますよ」
ああ明日が来なければいいのに…清平は窓から望む暮れかかった空にそう願った。
その晩祈るような思いで今日来なかった部員たちに真摯な文章のメールを打ち、緊張で眠れない夜を過ごしたのに、次の日に待っていた現実はあまりにも残酷だった。
「やっぱりね」
昨日と全く変わらない面子が集まった部室で久住は清平にそう勝利宣言をすると今日は用事があるからとすぐさま部室を後にした。
清平の願い空しく、久住は不戦勝で副部長の座を手に入れた。
誰がそのことを回したのか知らないが、久住が副部長に決まった途端、いきなり4名の女子生徒が新規部員に名乗りをあげたらしい。
顧問の土田に久住が副部長になったと報告に行ったときにまるでババ抜きのカードのように入部届を見せられてただでさえどん底だった気分がさらに地面を掘りだした。
だから嫌だったのだ。
自分はただ好きに絵を描いて、飽きたら静かな部室から外をぼーっと眺めて、許される時間いっぱいを部室で過ごす。それだけしかないのに。
美術部という場所は清平を一人にしてくれて、決して孤独にはしない場所だった。
明日から清平にとってのその安らぎの場は一人の色男を狙った女子たちの狩場になるのだ。
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