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第3話
「小池? また、練習につきあって? 放課後どう?」
田中が俺の肩を抱きながら、耳元で囁いた。
あの日、田中は俺を最後まで抱いた。
「蒼汰に聞かないと……」
「蒼汰なしでやろう? 俺の家、今日は大丈夫だから」
蒼汰の姿を探すと、廊下で隣のクラスの女子と話していた。
彼女と蒼汰は学祭の後からつきあい始めたと噂になっている。
蒼汰の腕に絡まされた白い腕が、その噂が真実だと物語っていると思う。
田中は俺の目線を追い、言葉を続けた。
「蒼汰は女に見境ないよね。小池の体には興味を示さないのにさ」
「え?」
「やっぱり、女の体の方がいいって」
田中は、俺の目を覗きこみながらまるで言い聞かすように囁いた。
「俺さ、小池に惚れたかも。このまま俺と付き合って」
「ええ?」
「本当は俺、最初から小池のことが気になっていたんだ。この学校のどの女よりも可愛いなって。女より男がいい。ゲイだったのかもしれない」
ぎゅっと肩を掴まれる。田中の顔が迫ってくる。
「蒼汰はゲイじゃない。女しか興味ない。何があってもお前に惚れることはない」
田中の言葉が心臓を抉る。ドクドクと拍動にあわせて血が溢れる。
そんなことわかっている。お前に言われなくても自分が1番わかっている。
蒼汰が女しか興味がないことも。俺に絶対惚れることがないことも。
「おい、お前ら何やってるんだよ!近いんだよっ!! 教室でキスするつもりか?」
突然現れた手に体を引き寄せられた。
蒼汰が怒った顔で田中を睨んでいる。
少し、息が乱れている。
廊下から走って来たのかもしれない。
手首を掴む蒼汰の掌の熱に、全意識が集中する。
「田中、約束が違うだろ? お前、女に振られたからって、こいつには手を出すな」
「なっ! 蒼汰には関係ないだろっ!! これは小池と俺との話だ。小池だって俺とちゃんと付き合いたいって言ってる」
「こいつがそんなこと言うわけない。 練習相手といちいち付き合っていたらキリがないだろ? それに練習は1度だけ。その後の親密なお付き合い厳禁。ルールを守れないなら、お前と縁を切る」
「なんだよそれ。そんなこと言って誤魔化すつもりだろっ!!」
「嘘じゃない。こいつの次の練習相手はもう、決まってる」
「誰?」
「金本」
「あいつか……」
「小池に童貞捨てるの手伝って欲しいって。これでお前と付き合うからって断ったら、お前、一生、金本に恨まれるぞ?」
「あいつ、しつこいからな……わかった。じゃあ、小池と個人的に付き合うのはやめる。お前に縁を切られるのもキツいし」
俺を置いて、二人の間で話が進む。
惚れたと言ったその口で、個人的に付き合うのはやめるとアッサリ前言をひっくりかえす。
そんなもの?
田中の抉った傷跡からは、止まることなく血が流れ続けている。
「ということで、小池? 今から金本の所にいくぞ」
手首を掴んだままになっていた手を引っ張って、蒼汰は歩き出した。
蒼汰の歩調にあわせて小走りになる。
田中に朝まで突っ込まれて疲弊した後孔がやっともとどおり復活した所だった。
処理の仕方もわからなくて、正直、大変だった。
もう二度とやりたくはない。
「ごめん。やりたくない。痛いし、腹下すし」
「わかった。今回は前戯を念入りにする。回数も1回だけって制限つける。終わったあとの始末も俺がやってやるよ。何回もいかせてめちゃくちゃ気持ちよくしてやる! 」
蒼汰から雄の香りが立ち上がる。
いつもの表情とは違う、セックスの時しか見せない特別な顔。
彼と寝た女にしか見せない顔をみたい。
彼の愛撫を受けたい。
この指先で秘処をまさぐられたい。
「わかった。お願いする」
気づいたら、そう答えていた。
まだなお、傷口から流れ出す血液に目をつむったまま。こうして、俺たちの女衒な関係が始まった。
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