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第3話③

廊下の向こうから声がする。もうそろそろマズイかもしれない。 「は、」 「ケ、イタ」 小さく名前を呼ばれて、腕をぎゅっと握られた。この無理矢理な行為を肯定するように、シンジが体を丸めて更に深く誘われる。 「こえ、がまん……できない、かも」 両手で口を必死に塞ぐシンジが堪らなく愛おしい。 ああ、俺はコイツのことが心底好きなんだ、と霞む瞳で見つめる。 「好きだよ、シンジ」 番とか、運命とか、そんなものに頼らなくてもきっとお前を好きになったと思うんだ。 彼と出会ったのは入社式のとき。初めて体を合わせたのは新歓の飲み会後だった。会話もそこそこに、お互い何の迷いもなく行為に没頭していて、気づけば番になっていた。 「ケイ…タ……すき……っ」 シンジの腰にぐっと体重を乗せて小刻みに揺らす。鼻にかかる甘い吐息と心臓の音が体に響いて。 「気持ちいい?痛くない?」 「きも、ち……い」 正直なところ、別に子どもなんかどちらでもいいのだ。シンジが傍にいてくれたら、それで充分。 「イジワルしてごめんね」 体を離して引き抜いた。 「なに……」 シンジの濡れた瞼を指で擦る。いい男が台無しだ。 「1回出したからちょっとはマシになっただろ」 「ケイタは……?」 「俺はもういいよ」 「だして、ないじゃん……」 「満足したし、シンジのフェロモン少なくなったから平気」 「でも、さ」 「続きはおうちに帰ってからね」 向かい合わせで、出来る限り綺麗に整えてシンジの髪を撫でる。 「ごめん」 下向きに自分でネクタイを締める彼の指先を見つめる。大体彼は自分で背負い込み過ぎなのだ。オメガでエリート、風当たりも強いし結果を出せなかったら潰される。 「いつまでそんな顔してんの。そんなんじゃ、バカにされるぞ」 少し赤くなってしまった目元に唇を寄せた。 「あの、ね。ケイタ」 「何?」 「忘れたんじゃなくて……ね?わざと薬、飲まなかったんだ」 「……は?」 思わず顔を覗き込む。 「試すようなことして……ごめんなさい」

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