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第6話

夕食は学食で済ませた。誠への連絡も済ませ、みなみは稔について歩いていた。 稔の住むアパートは学校から徒歩15分くらいのところにあった。 比較的新しいアパートで、1LDKの一室だった。 「入っていいよ」 「……お邪魔します」 廊下を歩くと風呂場への扉があり、通り過ぎるとトイレがあった。 更に進んだ扉を開けるとダイニングキッチンがあった。 この部屋から寝室へと繋がっているようだ。 大学生が一人で住むには広めだと思った。 「オレ、この部屋で寝るからベッド使っていいよ」 「いや、でも、」 七月だから風邪をひくことはないだろうが、家主を差し置いてベッドで寝るなんて図々しい真似はできない。 「オレがソファで寝ます!」 「いいって。どうせ遅くまでパソコンいじってるんだから、逆にこっちにいられるとオレが気にしちゃう」 部屋の中央にあるソファの前のテーブルにはノートパソコンが開いたまま置かれていた。 普段ここでレポート等を作っているのだろう。 「お風呂入れてくるね」 「はい……」 ソファを指さされたので移動してソファに座った。 本棚には難しそうな参考書がずらりと並んでいる。 マンガとか娯楽系のものは見当たらない。きょろきょろしていると稔が戻ってきた。 「ああ、ごめんね、何も面白いものないでしょ」 稔はそう言って苦笑する。 「下着は買ったって言ってたよね。パジャマは、オレの予備でいいかな?大きいかな?」 「十分です、ありがとうございます」 稔は隣に腰かけると、心配そうにみなみを見てきた。 「湯木くん、彼から連絡はあった?」 「はい。長居しないように、って。実家に帰る件は、応援してくれました」 「そっか。それだけ聞くと、悪い人じゃなさそうなんだけどね……」 稔は溜息をついた。悪い人じゃなさそう、と言うけれど、誠は性格が少しひねくれているだけで悪い人間ではない。 みなみのことを愛してくれているし、こうして心配もしてくれる。 北斗や誠がなぜここまで心配するのか、みなみにはよく分からなかった。 「たまにね、君のことは見かけてたから気にはしていたんだ」 「え?オレですか?」 「うん。その、もしかしてこの子が噂の子かな、って。見るたび心配になってて。で、今朝のことがあったから、びっくりして声かけちゃった」 危うく脱水症になりかけた朝の出来事を思い出す。 あの時は稔のおかげで救急車騒ぎにならず、本当に助かった。 「あ、お、お礼、しないと」 「気にしないで」 「でも、誠さんに言われてるんです。優しくしてもらったらお礼をするようにって」 刹那、ぴくん、と稔が反応した。表情を少し強張らせ、こちらの様子を伺うようだった。 「……例えば何をしてくれるの?」 「それは、」 みなみは少し考えてソファから降り、稔の足元にしゃがんだ。 「気持ち良くするんで、ズボン、下げていいですか?」 「……湯木くん、君、洗脳されすぎだよ」 そう言うと、稔はみなみの頭を優しく撫でた。 ズボンを下げる気配はない。誠には、男はみなこうされると喜ぶから、と教えられている。 だからその通りにしようと思っただけだ。 「普通、好きでもない人にこんなこと、しないんだよ」 「え?」 ピー、と音が鳴った。風呂の準備ができたらしい。 稔はわしゃわしゃと乱暴にみなみの頭を撫でて立ち上がった。 寝室へ行き、パジャマを準備して戻ってきた。 「ほら、お風呂行っておいで」 「え、でも、お礼……」 「見返りなんて求めてないよ。気にしないで」 分からない。 誠には、全ての男はそれを望んでいるからと教えられていて、今までだってそうしてきて、拒まれたことは一度だってなかった。 だから、自分のしようとする「お礼」を拒まれたとき、では他にどうすればいいかが全く分からなかった。

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