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第8話
「ね、先輩」
「何を必死になってるんだい、みなみ。何が怖いんだ?」
稔は悲しそうにみなみを見てくる。
稔は全く動じない。
みなみの誘いに応じない。
「はっきり言うよ。誠と君の関係はおかしい」
違う、おかしくなんかない。
そんなこと言わないでほしい。
否定したいのに言葉が出ないのは、みなみも薄々気が付いているからで。
だけどそれを肯定すれば、今までの自分は一体どうなる?
消えてしまいたいくらいの過ちを犯してきてしまったことになる。
「もし君がオレに抱かれたいのであれば、それはオレの恋人になってからの話だ」
「恋人……?」
「そう」
稔はみなみの頭を優しく撫でた。大きな手に撫でられるのは心地よかった。
「セックスっていうのはね、好きな人とする大切な時間なんだよ。好きでもない人とするのは、なんだか悲しいよ」
そう言うと、稔は立ち上がって背伸びをした。
こうして見ると、改めて、背が高いなぁと思う。
「オレ、お風呂行ってくるから。先に寝てていいよ」
「でも、」
「あ、お風呂に入ってこないでよ?そういうのは、恋人になってから。ね?」
先に釘を刺されてしまった。稔は手をひらひら振ってリビングを出て行った。
一人になったみなみはソファに横になった。
(オレが好きなのは、誠さん)
心の中で呟いて、頷いた。それは揺ぎない。
確かに稔に一目惚れのような感情は抱いているし、格好いいとは思うけど、みなみが好きなのは間違いなく誠だ。
(そうだ、それが、全てだ)
ぼんやりと、天井を眺めながら何度も何度も心の中で繰り返した。
まるで、自分自身に言い聞かせるかのように。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
目が覚めるとみなみはベッドに横になっていた。
稔が移動させてくれたようだ。
枕元に置いてあった自分のスマホで時刻を確認する。
深夜0時を過ぎた所だった。
ドアは閉まっているが、光が漏れている。
稔はまだ起きているらしい。
衣類が一切乱れていないのを改めて確認する。
眠っているみなみに対し、稔は本当に何もしていないようだ。
大体こういう時、目が覚めたら見知らぬ男と繋がっていたりしていたので、なんだか変な気持ちだった。
「ん……」
下着の上からペニスに触れると、既にそこは固くなっていた。
下着の中に手を入れて、じわりじわりと刺激を与える。
緩やかな刺激がみなみを襲い、快感がみなみの感情を支配する。
「あ、……ん、」
声が漏れないように必死で声を抑える。
前だけでは物足りない。
先走りで濡れた指を尻孔へゆっくりと挿入する。
拡がるのは早かった。
2本、3本を指を咥えこんで、くちゅくちゅと厭らしい音が鳴る。
(イけない……)
自慰行為なんて滅多にしないからやり方がよく分からない。
だけど、気持ちが昂って、このままでは寝られそうにもない。
(ほしい……)
指なんかでは物足りない。
刺激が足りない。
熱が足りない。
目尻に涙を浮かべながら、それでも前と後ろを必死に刺激し、快感の頂点を目指す。
が、なかなかそこには行きつかない。
「助けて……」
今にも泣きそうになった時だった。
リビングの電気が消え、ドアがゆっくり開かれた。
パジャマ姿の稔がスマホを手に寝室へと入ってきたらしい。
「みなみ?」
薄暗い中、みなみの異変に気づいたらしく、稔はベッドに近付く。
すぐに何をしているのかを察知したようで、稔はみなみの頭を優しく撫でた。
「無理にそんなことしなくていいんだよ」
みなみはふるふると首を振る。違う、体が火照って仕方ないのだ。
助けてほしい。この火照りから解放してほしい。
「先輩、助けて……」
「……イけないの?」
こくん、とみなみは頷いた。
稔は困ったような表情を見せ、みなみの頭を撫で続ける。
「依存症みたいになってるのかな」
「分からない、です」
ぐい、と稔のパジャマの裾を引っ張った。
ここには今、みなみと稔しかいない。
頼れるのは稔しかいない。
「助けて。オレを、抱いて?」
体が熱い。
達することができない体はもやもやし、頭の中がおかしくなりそうだった。
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