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第12話
家出してしまった。
別に親と喧嘩したとか、そういうことではない。
家族に愛想を尽かされていて、それに嫌気が差したのだ。
律儀かもしれないが置手紙はしてきたので捜索願を出すような大事にはならないだろう。
小さな公園のベンチに腰かけて、みなみはため息をついた。
出てきたのはいいが、行く当てがない。
友人の家に転がり込むにもみなみは友人が少ない。
唯一気が許せる北斗は実家暮らしなのでこういうときは頼れない。
頼れるとしたら、恋人の誠だけだった。
夜なのでもう仕事も終わり、家にいる頃だろう。
家出した、なんて言ったら怒られるだろう、そんなことを思いながらもラインを送るとすぐに電話がかかってきた。
『どこにいるの?』
みなみはキョロキョロとあたりを見渡し、場所を伝えた。
てっきり第一声で怒られると思ったのに、違う反応だったので少々驚いた。
幾分か時間が経って、誠が現れた。
誠はみなみを見つけると走ってきて、そして、力強く抱きしめてくれた。
「家出とか、心配した」
「ごめんなさい……」
誠は体を離すと、みなみの頭を撫でた。
「オレを頼ってくれてありがとう、みなみ」
「怒らないの?」
「どうして?我慢できないことがあったから逃げてきたんだろ?」
誠は怒らなかった。
みなみの手を引いて近くのコインパーキングへ停めていた車に誘導し、車を発進させた。
特に理由を聞いてくることはなかった。
誠の表情はいつも通りで、特に何か変わった様子はない。
みなみを咎めることもせず、誠はみなみを誠の家まで連れてきてくれた。
アパートの最上階である四階の角部屋が誠の部屋だ。
部屋には何回かしか入ったことはないので緊張した。
「荷物適当に置いて。気が済むまでうちにいるといいよ。大学からも遠くないよな?」
「うん」
みなみは部屋の隅に荷物を置いて、ソファに座った。
1LDKの広めの部屋だ。
カウンターキッチンで、ソファも置いてあり、そこに座るとテレビが見れる。
「……本当にいいの?迷惑じゃない?」
「迷惑?そんなばかな」
誠はみなみの隣に座り、ちゅ、と頬に口付けた。
「同棲みたいでドキドキするな」
同棲、と言われ、かあっと顔が熱くなった。
誠と二人きりの空間に慣れない。
何日いるかは分からないが、数日はお世話になるだろう。
その間、誠と二人きりになる。
「ごめん、なんか、ちょっとムラッとした」
「いいよ」
みなみは結っていた髪をほどき、ゴムを手首にかけた。
「キレイな黒髪だね、結ってない方が好きだな、可愛い」
「本当?誠さんといるときは解いとこうかな……」
「そうしてよ」
髪を梳きながら誠はにこりと微笑んだ。誠は優しかった。
キスも、抱擁も、何もかも優しかった。
その日のセックスは優しさに溢れていて、心も体も満足した。
誠の優しさにみなみは溺れた。
「みなみ、ごめんね、オレ、歪んでて」
「ううん。平気だよ。それで誠さんがオレをもっと愛してくれるなら」
だから、何をされても平気だった。
例え他の男に抱かれてくれ、と言われても、愛を確かめるためと言われれば疑問は抱かなかった。
それで誠がみなみを愛してくれるのならお安い御用だった。
「誠さん、好き」
「うん、オレも」
そう言って、誠は優しいキスをしてくれた。
みなみは身も心も誠の虜になっていた。
だから、北斗や稔の言っていることの意味が分からなかった。
信じることができなかった。
理解することができなかった。
だってみなみは、こんなにも誠に愛されているのだから。
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