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第13話

夕方、みなみは大学の講義を受けていた。 隣では北斗が欠伸をしながらぼんやりと黒板を眺めている。 結局稔はみなみに対し、何もしてこなかった。 一晩も一緒にいて何もしてこなかった男は稔が初めてかもしれない。 そう思うくらいにはみなみは性に溺れていた。 朝も、何事もなく、朝食を用意してくれて、そのまま大学に登校した。 稔は研究室に行くから、と正門で別れた。 本当にあっさりしていた。 「今日はここまで。復習を忘れないように」 教授の声と共にチャイムが鳴った。 今日の講義はこれでお終いだ。 片付けていると、ちょいちょい、と小突かれた。 「お前、当然今日は帰るんだよな?家に」 「う……」 正直家には帰りたくなかった。 みなみはスマホを確認する。 誠からのメッセージや着信は何も入っていない。 もしかしたら何かあるかな、と思ったが、そこまで心配はされていない様子だ。 「……今夜、誠さんに言ってからね。そしたら帰る」 「はあ?オレたちに散々言われて、まだあいつのこと信じてんのかよ」 「あいつとか言わないでよ。誠さんは本当にいい人なんだ」 抗議しながらみなみは今夜戻る旨を誠にラインした。 隣からは北斗のため息が聞こえてくる。 だが、どうしても信じられないのだ。 あの誠がみなみを騙して、みなみを男に売っているなんて、そんな話、嘘のようにしか思えない。 みなみを他の男に抱かせるのは誠の歪な愛故だ。 本人は何度もみなみにそう説明しているし、実際、その後の誠とのセックスはとても優しくされ、愛されていると実感できるようなものなのだ。 みなみを商売道具としか思っていない男がそんなことをするはずがない。 「お前、ほんと……」 北斗は何かを言おうとしたが、首を振ってそれを止めた。 きっとみなみの決心が固いのを見て、何を言っても無駄だと思ったのだろう。 「オレには強制力なんてないし、結局決断するのはお前自身だからな、もう言わないよ。だけどさ、家には一度でいいから帰った方がいい」 「……うん、それは、」 家出して一週間が経っただろうか。 もしかしたら親も心配しているかもしれない。 家出に対する罪悪感は多少なりとも感じてはいる。 「今夜、話したら、明日には帰るよ。そこは約束する」 「そっか。お前、約束は守る人間だもんな」 「うん、先輩にも、ラインしとくよ。心配してくれてるみたいだし」 何かあったら力になるからいつでも連絡してね、と稔は去り際に言っていた。 稔もまた、北斗と同様にみなみのことを心配してくれているのだ。 それはとても有り難かった。 だけど、心配は無用だとも思った。 誠に一応確認はするけれども、二人の心配するようなことはないに決まっている。 時計を見ると18時を少し過ぎていた。誠の仕事が終わる時間だ。 今から帰ればちょうどいいだろう。 「じゃあね、北斗。色々ありがとう」 「おー。体は大切になー」 北斗に手を振って、みなみは教室を出た。 そのまま学校を出て、誠の住むアパートへ向かう。 向かう道中で稔に先程の件をラインで送っておいた。 きっと北斗同様、誠の家へ戻るのは反対するだろうがこれはみなみが決めたことなので何を言われても揺らぐつもりはない。

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