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第14話

アパートの最上階の角部屋へと進む。チャイムを鳴らすと中から足音が聞こえた。 「おかえり、みなみ」 中から誠が出てきた。 優しい笑顔を見せてくれ、それだけで安心できた。誠はまだスーツを着たままだった。 帰って来たばかりらしく、冷房もまだ効いていなくて少し暑い。 部屋の中へ入り、カバンを適当に置いていつものようにベッドに腰かけた。 誠はスーツを脱いでカッターシャツの姿になると、みなみに近付き、ぎゅ、と抱きしめた。 「よかった。もうここには戻ってこないんじゃないかって心配してた」 「そんなこと、あるわけないでしょ」 「もしかしたら、昨日泊まった家の男に一目惚れでもしたんじゃないかって、不安で仕方なかったんだ。みなみ、面食いだからさ」 一目惚れはしたけれど、心は誠のものだ。 それは揺ぎ無い。みなみは微笑み、誠にキスをした。 髪をほどくと、髪ゴムを右手首にかけた。 誠は髪をばらしている方が好きなので誠の家ではいつも解くように心がけている。 「ねえ、誠さん」 みなみは誠をじっと見た。 絶対に大丈夫という思いがあるのであまり不安ではないのだが、やはり聞いておかなければならない。 「オレのこと、好き?」 「うん。嫌いな子を居候させたりするような男じゃないよ、オレは」 「そっか。うん」 その返答にみなみは満足だった。 やはり二人の思い過ごしなのだ。誠はそんな酷いことをするような男ではない。 みなみのことを好きだと言ってくれている。 「今日は、誰か来るの?」 誠は何かしらに不安を抱くと、大体みなみを他の男に抱かせ、それをもって愛を確かめているらしい。 昨日は不安にさせてしまっただろうから、今日はきっとそういう約束をしているのだろうと察したのだ。 「三人声かけたけど、みなみが嫌なら、」 「ううん、大丈夫。その方が、誠さんは安心するんでしょ?もう来るの?」 「そうだね、そろそろ、」 誠の言葉を遮るようにチャイムが鳴った。 今日はどんな人だろうか。 誠が玄関の方へ行ったのでみなみはベッドの上に横座りして戻ってくるのを待った。 話し声が聞こえ、誠と男が二人、入ってきた。 何回か見たことのある人物だ。 名前は確か、メガネをかけている方がアキラで、筋肉質の方がケン、だった気がする。 本名は知らない。誠たちがそう呼んでいたのを聞いて、なんとなく覚えただけだ。 「こんにちは、ゆきちゃん」 「こんにちは」 みなみはにっこりと愛想笑いをする。 今日は特に誠からの指示はないけれど、そういう時は男たちに従順にしていればいい。 みなみが男たちの本名を知らないのと同じで、男たちもみなみの本名を知らない。 「ゆき」を名前だと思い込んでいるらしいけれど、確かに名前みたいな苗字なので勘違いしてもおかしくないだろう。 あえて正そうとも思わないので、この空間ではみなみは「ゆきちゃん」を演じることにしている。 「ゆきちゃんって長身のイケメン好きだよね。今日は連れてきたよ、イケメン」 「え?」 ケンがにこにこと笑う。 二人も決して悪いわけではないのだが、みなみの好みではない。 そういえば、今日は三人と言っていたけれど、あと一人はどこだろうか。 「やっぱりイケメンに抱かれた方が、ゆきちゃんも嬉しいと思って。苦労したんだよー、なかなかオッケー貰えなくてさ。おい、入れよ」 アキラが言うと、足音が聞こえた。 そちらの方に視線を移すと、みなみの表情から笑顔が消えた。 (嘘でしょ……) 部屋に入ってきたのは昨日お世話になったばかりの稔だった。 稔は落ち着かない様子で、そわそわしている。 なかなかみなみの方へ近付こうとはせず、ドア閉めて、そこから動かない。 (なんで……) ――オレの知人が、『ゆきちゃん』って子の話をしていてね。一緒にパーティしないかって誘われて そんなことを、確か稔は言っていた。 稔の言う知人とはこの二人のことだったらしい。 反応に困っていると、ケンに頭を撫でられた。 「イケメンすぎてゆきちゃん固まってんじゃん。でもドストライクだろ?稔っていうんだ」 「稔……」 駄目だ、ここで稔と知人であることは誠には知られたくない。 知られたら、「ゆきちゃん」を演じきれなくなってしまいそうだ。 それに、昨日泊まった家の主であることも、なんとなくだが知られたくなかった。

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