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2.ライバルの存在

「徹、危ない!」 ボーっとしていた徹は、世流の怒鳴り声と、頭への衝撃で我に返った。 今は二時間目の『体育』の時間。 内容はドッチボールだ。 「徹、何ぼんやりしてたんだ? お前らしくない」 駆け寄って来た世流が、徹の傍らに膝をつく。 「悪い……今日変な夢見てさ――」 「夢?」 怪訝な顔をする世流に、徹は頷いた。 そして徹は、まじまじと世流の顔を見る。 どうしてあの大蛇が、世流の姿になったんだろう? いや、正確には世流よりも年上だった。 世流が年を取ったらそうなる、と言うくらい良く似ている。 大蛇と世流―― 何か理由があるのか、それとも偶然? 「徹……?」 ハッと気付くと、訝しげな顔をした世流が、徹をジッと見詰め返していた。 「わっ、悪い。何でもねぇから――てっ!?」 焦る徹の額に、突然世流の手が触れる。 「――やっぱり、少し熱があるな。すぐ保健室に行くぞ」 「うあっ……ちょ、ちょっと神野!?」 自覚は無いが、熱があるらしいので、運んでくれるのはありがたい。 ありがたいが、どうしてお姫様抱っこなんだ~!! 身長は同じくらいなのに、細身の世流が、軽々と徹を抱え上げている。 「ダーッ! 離せー!」 いくら抵抗しても世流は止まらず、真っ直ぐに保健室へ向かっていた。 幸いなのは、授業中と言う事で、誰ともすれ違わなかった事だ。 そして保健室に着いた時、扉を開けようとした世流の手が、ピタッと止まる。 ……どうやら、先客がいるらしい。 『ねぇ、良いだろう?』 『今は仕事中ですよ』 『良いじゃないか。どうせ誰も来たりしないよ』 ごめんなさい、利用希望者がここにいます。 世流は盛大にため息をついた。 そして無情にも、勢い良く扉を開く。 「あれ……? 世流と徹じゃないか。君達二人でサボりかい?」 「そんな言い方はやめてください、優人先生」 やっぱり、先客は優人先生だった。 保健医の光先生は、この学校で一番美人な先生だ。 ……男だけど。 「どうかしましたか?」 「徹が寝不足で貧血を起こしたので、ベッドを貸してください」 「え?」 貧血? さっきは「熱がある」とか言ってなかったか? 「なんだ、やっぱりサボりじゃないか」 戸惑った徹は、世流と優人先生を交互に見る。 「授業中にボーっとしているよりは、貧血として寝かせた方がマシです」 「え、んじゃ熱があるってのは?」 「かつがれたね? 徹」 つまり熱があると言うのは嘘で、実際には寝不足の徹を寝かせるのが、目的だったらしい。 「貧血ならどうぞ」 世流の嘘を知りながら、それでも優しく微笑む光先生が、ベッドを指差す。 「相変わらず優しいね」 「保健医として、当然ですよ」 ちょっかいを出してくる優人先生を、光先生が軽くあしらう。 仲が良いな~。 そんな二人を無視して、世流は徹をベッドに運び、手際良く寝かせた。 「……ありがと」 フンと鼻を鳴らして、世流は顔を背ける。 珍しい事に、世流が照れているらしい。 「お前は大人しく寝ろ」 そう言った世流は、スタスタとベッドを離れて、優人先生の所へ行った。 「父上――」 「ん……」 短く会話した世流と優人先生が、連れ立って保健室を出て行く。 「また来るよ、光」 いつもの軽い調子で笑う優人先生に、光先生も優しく微笑んで、小さく手を振り返す。 それにしても「父上」って――昨日から世流は、時代劇にでもハマっているのだろうか?   ☆  ★  ☆ 世界が終わるかも知れない大戦で、確かに大蛇は笑っていた。 「ヨルムンガルド……何を笑っているんだ?」 ハンマーを構えた男が、怪訝な顔をする。 蛇の表情が分かるなど、長い付き合いなればこそだろうか。 確かな喜びを押し隠し、男は大蛇を怒鳴る。 「戦いの最中だぞ、ヨルムンガルド!」 そうしないと――男も笑ってしまいそうだから。 『すまない。ただの思い出し笑いだ、気にするな』 どこまでも嬉々とした大蛇に、男もついニヤリと笑ってしまった。 それを隠すために「余裕だな……?」と憎まれ口を叩く。 けれど本当は、男にとっても楽しい。 楽しくて仕方がない。 例え敵どうしになっても、やはり最高のライバルには変わらない。 決着をつける――それが、自分達の全てだ。   ☆  ★  ☆ ……今度の夢は、懐かしい以上に凄く楽しかった。 あの大蛇と男は、最高のライバルだったのだ。 だから、戦いながらも凄く楽しくて――死ぬ時は、道連れになる事を望んだ。 「え? 大蛇と大男が戦う夢?」 「うん、そう」 いくらか眠った徹は、授業が終わるまでの数分を、光先生とお茶しながら過ごした。 内容は、徹がいつも見る夢の話。 「世界が終わるかも知れないって戦いで、大きなハンマーを持った大男が、大蛇と戦うんだ」 「……まるで北欧神話みたいですね」 「北欧神話?」   ☆   ★   ☆

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