3 / 13
2.ライバルの存在
「徹、危ない!」
ボーっとしていた徹は、世流の怒鳴り声と、頭への衝撃で我に返った。
今は二時間目の『体育』の時間。
内容はドッチボールだ。
「徹、何ぼんやりしてたんだ? お前らしくない」
駆け寄って来た世流が、徹の傍らに膝をつく。
「悪い……今日変な夢見てさ――」
「夢?」
怪訝な顔をする世流に、徹は頷いた。
そして徹は、まじまじと世流の顔を見る。
どうしてあの大蛇が、世流の姿になったんだろう?
いや、正確には世流よりも年上だった。
世流が年を取ったらそうなる、と言うくらい良く似ている。
大蛇と世流――
何か理由があるのか、それとも偶然?
「徹……?」
ハッと気付くと、訝しげな顔をした世流が、徹をジッと見詰め返していた。
「わっ、悪い。何でもねぇから――てっ!?」
焦る徹の額に、突然世流の手が触れる。
「――やっぱり、少し熱があるな。すぐ保健室に行くぞ」
「うあっ……ちょ、ちょっと神野!?」
自覚は無いが、熱があるらしいので、運んでくれるのはありがたい。
ありがたいが、どうしてお姫様抱っこなんだ~!!
身長は同じくらいなのに、細身の世流が、軽々と徹を抱え上げている。
「ダーッ! 離せー!」
いくら抵抗しても世流は止まらず、真っ直ぐに保健室へ向かっていた。
幸いなのは、授業中と言う事で、誰ともすれ違わなかった事だ。
そして保健室に着いた時、扉を開けようとした世流の手が、ピタッと止まる。
……どうやら、先客がいるらしい。
『ねぇ、良いだろう?』
『今は仕事中ですよ』
『良いじゃないか。どうせ誰も来たりしないよ』
ごめんなさい、利用希望者がここにいます。
世流は盛大にため息をついた。
そして無情にも、勢い良く扉を開く。
「あれ……? 世流と徹じゃないか。君達二人でサボりかい?」
「そんな言い方はやめてください、優人先生」
やっぱり、先客は優人先生だった。
保健医の光先生は、この学校で一番美人な先生だ。
……男だけど。
「どうかしましたか?」
「徹が寝不足で貧血を起こしたので、ベッドを貸してください」
「え?」
貧血?
さっきは「熱がある」とか言ってなかったか?
「なんだ、やっぱりサボりじゃないか」
戸惑った徹は、世流と優人先生を交互に見る。
「授業中にボーっとしているよりは、貧血として寝かせた方がマシです」
「え、んじゃ熱があるってのは?」
「かつがれたね? 徹」
つまり熱があると言うのは嘘で、実際には寝不足の徹を寝かせるのが、目的だったらしい。
「貧血ならどうぞ」
世流の嘘を知りながら、それでも優しく微笑む光先生が、ベッドを指差す。
「相変わらず優しいね」
「保健医として、当然ですよ」
ちょっかいを出してくる優人先生を、光先生が軽くあしらう。
仲が良いな~。
そんな二人を無視して、世流は徹をベッドに運び、手際良く寝かせた。
「……ありがと」
フンと鼻を鳴らして、世流は顔を背ける。
珍しい事に、世流が照れているらしい。
「お前は大人しく寝ろ」
そう言った世流は、スタスタとベッドを離れて、優人先生の所へ行った。
「父上――」
「ん……」
短く会話した世流と優人先生が、連れ立って保健室を出て行く。
「また来るよ、光」
いつもの軽い調子で笑う優人先生に、光先生も優しく微笑んで、小さく手を振り返す。
それにしても「父上」って――昨日から世流は、時代劇にでもハマっているのだろうか?
☆ ★ ☆
世界が終わるかも知れない大戦で、確かに大蛇は笑っていた。
「ヨルムンガルド……何を笑っているんだ?」
ハンマーを構えた男が、怪訝な顔をする。
蛇の表情が分かるなど、長い付き合いなればこそだろうか。
確かな喜びを押し隠し、男は大蛇を怒鳴る。
「戦いの最中だぞ、ヨルムンガルド!」
そうしないと――男も笑ってしまいそうだから。
『すまない。ただの思い出し笑いだ、気にするな』
どこまでも嬉々とした大蛇に、男もついニヤリと笑ってしまった。
それを隠すために「余裕だな……?」と憎まれ口を叩く。
けれど本当は、男にとっても楽しい。
楽しくて仕方がない。
例え敵どうしになっても、やはり最高のライバルには変わらない。
決着をつける――それが、自分達の全てだ。
☆ ★ ☆
……今度の夢は、懐かしい以上に凄く楽しかった。
あの大蛇と男は、最高のライバルだったのだ。
だから、戦いながらも凄く楽しくて――死ぬ時は、道連れになる事を望んだ。
「え? 大蛇と大男が戦う夢?」
「うん、そう」
いくらか眠った徹は、授業が終わるまでの数分を、光先生とお茶しながら過ごした。
内容は、徹がいつも見る夢の話。
「世界が終わるかも知れないって戦いで、大きなハンマーを持った大男が、大蛇と戦うんだ」
「……まるで北欧神話みたいですね」
「北欧神話?」
☆
★
☆
ともだちにシェアしよう!