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9.それから……
「不覚だ……」
目を覚ました世流の第一声だ。
何時間眠っていたのか分からないけど、外はもう真っ暗になっている。
二人で絶頂を迎えた後、揃って気を失ったらしい。
詳しくは知らないけど、神力を奪われていた世流よりも、徹の方が先に目を覚ました。
イくと同時に切れた呪いの紐は、どこかに消えてしまったらしい。
いつの間にか抱き締められていた徹は、間近にあった世流の顔を見て、羞恥にカアッと赤面する。
(……本当に、世流に抱かれたんだな……)
不思議と、嫌な感じはしない。
むしろ、好きと言われて、本当に嬉しかった。
『好きだ……前世の昔からずっと……お前を、愛していた』
さっきの行為を思い出し、徹は世流の腕の中で、恥ずかしさに身悶える。
それがくすぐったかったのか、ほどなくして世流も目を覚ました。
徹の顔を見て一瞬硬直した世流は、そそくさと徹を開放し、片手で顔を覆う。
そして――
「不覚だ……」
その言葉に徹はムスッと口を尖らせる。
「何だよ。呪いが解けたんだから、別に良いだろ? それに世流の方から、抱かせろって言ったんじゃねぇか」
「それが不覚だと、言っているんだ」
世流がため息をつく。
「お前を巻き込む積もりなんか……無かったのに」
ボソッと呟いた世流が、悔しそうに唇を噛む。
「巻き込む? それって、さっきの影みたいなヤツの事か?」
徹の問いに、世流が静かに頷く。
「それと……前世の、事も……」
「前世……」
確かに、今でも徹は信じられない。
ただの神話だと思っていた『北欧神話』の、雷神トールが徹の前世で――
雷神トールのライバルだった大蛇が、世流の前世だったなんて。
誰が信じられる?
「――本当、なのか? 俺達の前世が……」
もう一度、世流が頷く。
「お前の前世は、北欧神話の雷神トールだ。そして俺は――世界を取り巻く大蛇ヨルムンガルドだ」
世流が悲しいような、自嘲のような苦笑をする。
「驚いたか? それとも、嫌だったか? 前世が魔物の俺に抱かれて――」
「魔物なんて言い方、するな!」
徹の怒声に遮られ、世流がフッと顔を上げる。
「さっきのヤツにも言っただろ! 世流は俺にとって最高のライバルだ。人とか魔物とか、そんな事は関係無い」
「徹……」
世流が切ない顔をした。
「それに俺は……さっきのアレ、だって……その……別に、嫌じゃ……」
羞恥にどもる徹に、世流は眉間のシワを深くする。
「正直に言って良いぞ? お前が感じていたのは、媚薬のせいだからな」
「は? 媚薬……? 何だよ、ソレ」
分からないと言う顔をする徹に、世流は深くため息をつく。
「神力を解放した俺は、毒や薬を、作る事ができる。……媚薬と言うのは、性欲を強くする薬だ」
一瞬――徹の思考が停止した。
「……えぇ~と~……それじゃあ、さっき……乳首とか、触られると――気持ち良かったり……その……いっ、入れただけで、イったのは……」
「媚薬の効果だ。――俺は唾液でも薬を作れる」
徹はカアッと顔を赤く染める。
「俺をなじっても良いぞ。――意識が朦朧(モウロウ)としていたとは言え、俺はお前に酷い事をした」
世流が断罪を待つように目を閉じて、静かにうつむいた。
沈黙が落ちる。
そして徹は、もう一度だけ考えてみた。
「……それでも俺は、やっぱり――良かったと思ってる」
ハッと息を呑んだ世流が、信じられないと言う顔をして、徹を見詰める。
さすがに目を合わせるのは恥ずかしく、徹は頬を赤らめたまま、横を向く。
「例え媚薬のせいで、か、か、感じた、としても……俺は――世流以外と、あ、あんな事は……したく、ない。……それに――」
これ以上無いほど、顔を真っ赤にした徹が、ゴクリとツバを飲み込んだ。
「……それに?」
世流が弱々しく促す。
少しの間押し黙っていた徹は、意を決して世流と目を合わせた。
「おっ、俺も……世流が、好きだ!」
驚いて目を見開き、情けない顔した世流が、茫然と徹を見詰める。
(世流のこんな顔、初めて見たな……)
笑いたいような、恥ずかしいような……徹は変な顔をした。
「前世とかは、まだよく分かんねぇけど……世流に好きだって言われた時、凄く嬉しかった。――それってさ、俺も世流の事が、好きって事だろ?」
「それは……」
なおも反論しようとする世流を、徹がニッと笑って遮る。
「それとも、その媚薬って言うのは、俺の気持ちまで操作できるのか?」
小さく首を振った世流が、弱々しく破願した。
「凄く……嬉しい……」
徹もハニカんで笑う。
その時――
『お二人さ~ん。そろそろ開けても良いかなぁ?』
のんびりとした声を掛けながら、優人先生が保健室の扉をノックする。
そう言えば、まだ着替えてもいなかった!!
『後10秒~♪ 9……8……7……』
「ちょっ! ちょっと待ってッ!」
それから徹と世流は、慌てて着替え始めた。
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