10 / 13

9.それから……

「不覚だ……」 目を覚ました世流の第一声だ。 何時間眠っていたのか分からないけど、外はもう真っ暗になっている。 二人で絶頂を迎えた後、揃って気を失ったらしい。 詳しくは知らないけど、神力を奪われていた世流よりも、徹の方が先に目を覚ました。 イくと同時に切れた呪いの紐は、どこかに消えてしまったらしい。 いつの間にか抱き締められていた徹は、間近にあった世流の顔を見て、羞恥にカアッと赤面する。 (……本当に、世流に抱かれたんだな……) 不思議と、嫌な感じはしない。 むしろ、好きと言われて、本当に嬉しかった。 『好きだ……前世の昔からずっと……お前を、愛していた』 さっきの行為を思い出し、徹は世流の腕の中で、恥ずかしさに身悶える。 それがくすぐったかったのか、ほどなくして世流も目を覚ました。 徹の顔を見て一瞬硬直した世流は、そそくさと徹を開放し、片手で顔を覆う。 そして―― 「不覚だ……」 その言葉に徹はムスッと口を尖らせる。 「何だよ。呪いが解けたんだから、別に良いだろ? それに世流の方から、抱かせろって言ったんじゃねぇか」 「それが不覚だと、言っているんだ」 世流がため息をつく。 「お前を巻き込む積もりなんか……無かったのに」 ボソッと呟いた世流が、悔しそうに唇を噛む。 「巻き込む? それって、さっきの影みたいなヤツの事か?」 徹の問いに、世流が静かに頷く。 「それと……前世の、事も……」 「前世……」 確かに、今でも徹は信じられない。 ただの神話だと思っていた『北欧神話』の、雷神トールが徹の前世で―― 雷神トールのライバルだった大蛇が、世流の前世だったなんて。 誰が信じられる? 「――本当、なのか? 俺達の前世が……」 もう一度、世流が頷く。 「お前の前世は、北欧神話の雷神トールだ。そして俺は――世界を取り巻く大蛇ヨルムンガルドだ」 世流が悲しいような、自嘲のような苦笑をする。 「驚いたか? それとも、嫌だったか? 前世が魔物の俺に抱かれて――」 「魔物なんて言い方、するな!」 徹の怒声に遮られ、世流がフッと顔を上げる。 「さっきのヤツにも言っただろ! 世流は俺にとって最高のライバルだ。人とか魔物とか、そんな事は関係無い」 「徹……」 世流が切ない顔をした。 「それに俺は……さっきのアレ、だって……その……別に、嫌じゃ……」 羞恥にどもる徹に、世流は眉間のシワを深くする。 「正直に言って良いぞ? お前が感じていたのは、媚薬のせいだからな」 「は? 媚薬……? 何だよ、ソレ」 分からないと言う顔をする徹に、世流は深くため息をつく。 「神力を解放した俺は、毒や薬を、作る事ができる。……媚薬と言うのは、性欲を強くする薬だ」 一瞬――徹の思考が停止した。 「……えぇ~と~……それじゃあ、さっき……乳首とか、触られると――気持ち良かったり……その……いっ、入れただけで、イったのは……」 「媚薬の効果だ。――俺は唾液でも薬を作れる」 徹はカアッと顔を赤く染める。 「俺をなじっても良いぞ。――意識が朦朧(モウロウ)としていたとは言え、俺はお前に酷い事をした」 世流が断罪を待つように目を閉じて、静かにうつむいた。 沈黙が落ちる。 そして徹は、もう一度だけ考えてみた。 「……それでも俺は、やっぱり――良かったと思ってる」 ハッと息を呑んだ世流が、信じられないと言う顔をして、徹を見詰める。 さすがに目を合わせるのは恥ずかしく、徹は頬を赤らめたまま、横を向く。 「例え媚薬のせいで、か、か、感じた、としても……俺は――世流以外と、あ、あんな事は……したく、ない。……それに――」 これ以上無いほど、顔を真っ赤にした徹が、ゴクリとツバを飲み込んだ。 「……それに?」 世流が弱々しく促す。 少しの間押し黙っていた徹は、意を決して世流と目を合わせた。 「おっ、俺も……世流が、好きだ!」 驚いて目を見開き、情けない顔した世流が、茫然と徹を見詰める。 (世流のこんな顔、初めて見たな……) 笑いたいような、恥ずかしいような……徹は変な顔をした。 「前世とかは、まだよく分かんねぇけど……世流に好きだって言われた時、凄く嬉しかった。――それってさ、俺も世流の事が、好きって事だろ?」 「それは……」 なおも反論しようとする世流を、徹がニッと笑って遮る。 「それとも、その媚薬って言うのは、俺の気持ちまで操作できるのか?」 小さく首を振った世流が、弱々しく破願した。 「凄く……嬉しい……」 徹もハニカんで笑う。 その時―― 『お二人さ~ん。そろそろ開けても良いかなぁ?』 のんびりとした声を掛けながら、優人先生が保健室の扉をノックする。 そう言えば、まだ着替えてもいなかった!! 『後10秒~♪ 9……8……7……』 「ちょっ! ちょっと待ってッ!」 それから徹と世流は、慌てて着替え始めた。   ☆   ★   ☆

ともだちにシェアしよう!