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エピローグ

「なんで優人先生達が、そんな事を知っているんですか?」 不思議そうな顔をする徹に、優人先生だけでなく、光先生と世流まで笑う。 「君なら、もう分かるはずだよ……トール」 トール―― その優人先生の呼び掛けに、徹の中でまた琴線が震えた。 そして、ある一人の友と、優人先生が重なる。 徹はハッとした。 「ロキ!」 驚いて声を上げる徹に、優人先生――邪神ロキが、役者のような大げさな身振りで、やれやれと肩をすくめる。 「やっと気付いたのかい? トール。君は本当に頭が悪いね」 あぁ、その人を小馬鹿にした口調、本当にロキだ。 イタズラの神で、トール神の親友だったロキだ。 「それじゃあ……光先生も――?」 光先生がニコニコと笑って頷く。 「私は、光の神と呼ばれたバルドルの転生です」 バルドル――北欧神話で一番偉い神様オーディンの息子だ。 一般には、ロキがバルドルを殺させた事しか、言われていないが…… 「やっと幸せになれたんだな……おめでとう」 ロキとバルドル――もとい、優人先生と光先生は、肩を寄せ合って微笑んだ。 ロキとバルドルの恋は、この4人だけの秘密。 「僕達も、最初から前世の記憶があった訳じゃないけど。光と出会ったら、もう離れられなくてね」 「私も、なぜか優人と一緒にいたくて……それから少しずつ、記憶が戻ってきたんです」 神力が使えるようになったのは、さらに時間が経ってからだったらしい。 「今回の事件を知ったのは……1ヶ月くらい前かな? 冥界の女王で前世の娘だったヘルから、使いが来たんだ」 使いは最初、青い火の玉の姿をしていたらしい。 『お父様の神力を感じて、ずっとお話したかったの。実は、大変な事が起こってしまって――』 そしてヘルに頼まれたのが、脱走した神々を捕まえる事だった。 「僕は欺瞞(ギマン)とイタズラを司っていたから、けっこう恨まれていてね……まぁ、今回はトールに逆恨みしていたんだけど」 「本当は、徹君を巻き込みたくなかったのですが……力がおよばなくて、ごめんなさい」 頭を下げる光先生に、徹は慌てて首を振る。 「俺は別に何とも思ってないよ。……むしろ世流の事――ヨルムンガルドの事を思い出せて、良かったと思ってるから」 少し頬を赤く染める徹に、世流も赤い顔を背けた。 「あぁ……えっと……そう言えば、北欧神話の中で、他にも転生してる人っているの?」 相手がかつての親友のロキだと思ったら、もう敬語を使うのもバカバカしい。 恥ずかしくなって話題を変えた徹に、優人は苦笑して頷く。 「いるよ。僕のもう一人の息子は、ロキの息子の狼、フェンリルだ」 徹はまだ会った事は無いけれど、世流の兄で、確か大学生だったはずだ。 光先生が続ける。 「国語教師の砂神先生とその妹さんは、豊穣を司るフレイとフレイヤです」 「あのシスコン先生もなんだ……」 国語の砂神先生は、いつも貴族かぶれな口調なのだが――まさか前世が神様だったとは。 次を世流が引き継ぐ。 「それから2年の門神先輩も、北欧神話の門番だったヘイムダルだ」 「あぁ、あの吹奏楽部でホルン吹いてる人?」 男子の吹奏楽部員は珍しいから、徹も覚えている。 「今僕達が把握しているのは、彼らだけだけど……もしかしたら、他にもいるかも知れないね」 徹が「へぇ~」と感心していると、光先生がクスクスと笑う。 「さて、そろそろ帰りましょう」 時計を見ると、もう7時に近かった。 「徹も、今日はウチに泊まって行きなよ。まだ話し足りないだろう?」 「お、行く行く!」 保健室を出て、先生達は職員室に、徹達は部室へ着替えに向かう。 「……なぁ、世流? 一つ聞いて良いか?」 「なんだ?」 少しそっけ無い世流に、徹は軽くうつむいた。 「……前世の話、なんだけどさ……最後の戦いの時、どうして、俺を突き放したんだ?」 『愚か者……』 そう言ったヨルムンガルドが、わざわざ人の姿に変身して、トール神を突き放した。 「………」 世流は何も答えない。 「……俺は、お前の道連れになっても良いと、本当に思ってたんだ」 トールの最期の言葉―― 『……来世で、また会おうな』 あの言葉は、嘘なんかじゃない。 トールの心からの願いだったのだ。 それなのに―― 徹は苦渋に顔を歪ませ、深くうつむいた。 「それとも、お前には……迷惑だったのか?」 「違う!」 叫ぶような世流の言葉に、徹はハッと顔を上げる。 振り返った世流が、真っ直ぐに徹を見詰め、何か言い淀むように口を歪めた。 「――お前の言葉は――俺も……本当に、嬉しかった………けど……」 言葉を詰まらせた世流が、どこか泣きそうな顔でうつむく。 「……俺は――ヨルムンガルドは――トール達とは、違う。……お前は否定してくれたけど、やっぱり俺は魔物なんだ」 「世流!」 咎めようとした徹を、世流の強い目が遮った。 「世界を取り巻く大蛇……魔物のヨルムンガルドが死んでも、神族であるトールと同じ場所へは行けない。ましてや、生まれ変わる事なんて……できないと思っていた」 黙って耳を傾ける徹に、世流が小さく微笑む。 「……ありがとう、徹。俺を、受け入れてくれて」 「……おぅ」 テレて頬を赤らめる徹に、世流が一転して、ニヤリとした意地悪な笑みを浮かべる。 「夜は、たっぷりと可愛がってやるからな。覚悟して置けよ」 「なっ……おま……さっき散々したじゃねぇか!」 顔を真っ赤にして怒鳴る徹に、世流はフフンと鼻で笑った。 「それはソレ。これはコレだ。今夜が楽しみだな? 徹」 ニヤニヤする世流に、徹は危機感を覚えたが…… やっぱり嫌な気はせず、これから二人で歩む未来を考えると、むしろワクワクしていた。 『これからは、ずっと一緒だぜ』  END.

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