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第3案【ヤキモチだなんてとんでもない】 前編

 ……と、まぁ。  俺が井合課長を好きになった理由は、そんな些細なきっかけだったのだが……。 「──どうだ! 昼休みを全て費やし、俺様が開発した究極のオナホ! 実際に使って、感想を提出したやつには【ド変態】のレッテルを貼ってやろう!」 「──いったい誰にメリットがあるんですか!」 「──うわッ! こっちに持ってこないでくださいッ!」  ……早まったよなぁ。  井合課長は奇妙な形をした発明品を両手で持ちながら、事務所を走り回っている。そして、そんな課長から逃げるように走り回る職員たち。  ……まるで、虫を捕まえてはしゃぐ小学生男子と、虫を怖がる小学生女子のような掛け合いだ。実に、不毛。  いつ見ても、井合課長を『可愛い』と思ってしまうのが【惚れた弱み】だとしても、だ。  ……なんで俺は、あんな幼稚で低能な人を好きになってしまったのか。悔やんでも、悔やみきれない。本当に、本気で。  井合課長の持つ、特筆すべき長所や特技。……それは、悔しいことに【頭脳】だ。  内容は置いておいて、短時間で発明品を作れるぐらいには頭の回転が早いし、作業効率もいい。この会社で販売している商品やサービスは、ほとんど井合課長が考案したものだ。  馬鹿と天才は、紙一重。井合課長はその言葉を、体現している。  無邪気に珍発明品を持って走り回っている井合課長は、可愛い。悔しいけど、物凄く可愛いのだ。  だけど、なぁ……? 「どうだクソ童貞! 俺様のシコリティシンボルなショタボディには負けるが、かなりの逸品だぞ? 感想を提出しないか?」  井合課長は俺に近寄ると、瞳をキラキラと輝かせながら発明品を掲げてきた。  要望は最低だが、容貌は最高だ。可愛い。なので、すかさず俺は反撃をする。 「──玩具よりも、井合課長がいいです」  こんな具合に、それとなくアピールは繰り返しているのだが……たぶん、伝わっていない。  自分に自信しか持っていない井合課長は、俺が【アプローチ】のつもりで言っている発言も、ただの称賛だと受け取るのだから。  すると、珍しいことが起こった。 「……そ、そうかっ」  ──なんと……あの井合課長が、照れたような表情を浮かべたではないか。  発明品を持っていない方の手を口元に寄せる井合課長は、頬がカァッと赤くなっている。  ……これは、もしかして。ようやく、俺の想いが伝わったのか?  恋心を自覚してから、それとなくアプローチを続けて何百回目。ついに、この馬鹿で自惚れ屋な課長に俺の気持ちがクリティカルヒットしたのかもしれない。  この反応は当然、俺としては好都合だ。……だが、これはどっちの意味合いなのだろう? 珍しい表情だということもあり、俺は思わず井合課長に見惚れてしまう。  しかし、モジモジと恥じらう井合課長の口から飛び出たのは、予想外の発想だった。 「──オナホの具合を、俺様のケツと同等にしたら至高の逸品になるだなんて……っ。まさか、クソ童貞のお前に気付かされるなんてな」 「……はいっ?」 「そうだよな……っ。ド変態のための道具なんだから、もっとド変態の気持ちに寄り添って作らないとだよな……っ。まったく、俺様としたことが失態だ。ハメ撮り動画なのにカメラに向かって目線を投げないくらいの大失態だ。盲点だったぜ」  ……あ~、なるほど。そうか、そういうことか。  ──マジでこの人、馬鹿だ。

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